●水産食品士について学科長に聞く
2008年7月30日
今日は、この4月から始まった水産大学校独自の資格「水産食品士」について、芝食品科学科長に聞きました。
----------水産食品士のコースが4月から始まったと聞いていますが
そうです。この4月から1、2、3年生を対象に希望者を募って開始しました。具体的には調理教室を月2回開催したのです。
----------と言うと、水産食品士とは料理が出来る人を育てる事なのでしょうか?
違います。端的に言えば、水産食品士とはそれぞれの魚の肉質を熟知していて、最も効果的な利用方法をイメージしながら流通や加工をアレンジできる人です。したがって肉質を、「切る・食べる」の作業を通じて熟知する必要があります。そしてこれらの知識が、水産利用学や保蔵学、さらには衛生学の知識に裏付けされている必要があります。
トラフグから刺身を作るところ
-----------????今ひとつピンときません。大学って、そんなことまでするんですか?もっと基礎的な、そして先進的な事を教えるのに専心すべきではないでしょうか?「肉質を熟知していて、最も効果的な利用方法」と言うレトリックだと、美味しいか、不味いかの判断基準しか思いつきません。
困りましたね。食品科学の先進的な部分は、機能性、つまり健康増進機能ですが、「肉質を熟知している」ことと「健康増進機能」は確かに直接結びつきません。切り口を変えて説明しましょう。
私どもは、食品産業を大きく変えると期待された機能性食品の開発を水産分野でも活発に行うべきだと考え、食品機能学講座を設置しています。つまり先進的な部分についても対策を施してきたのですが、最近の食育運動の過程で「食」が大きく見直されてきている事に注目しています。食育は、食べる行為を通じて健康増進を図ろうとしています。つまり機能性食品の重点は食品にありますが、食育は食べる行為に重点をおいています。また食べる行為を通じて得られる幸福感に対する大きな期待があります。
----------つまり、美味しいか?と言うことですか。
そうです。そして食文化に対する期待があります。
----------そうだとして、それが食品産業と結びつくのでしょうか?
ええ、食品産業は、昔も今も美味しさで勝負していますし、食文化の復権は、食を益々楽しくさせ、食品産業をきめ細かなものにすると思います。
----------少し難しくなってきたので、具体的なことを聞きます。調理教室に対する学生の反応は如何でしたか?
意外にも大変好評でした。『もっと早くからこうした取り組みをして欲しかった』と言うような反応が多かったです。また参加者の割合も75%ほどで、4月の開始以来、減少しませんでした。
----------一説によると、美味しい魚が食べられて、ご飯も出てきて、お腹が一杯になるからだと言われていますが?
私もそうかなと思って担当の教員に聞くのですが、どうも学生は面白いと思っているようです。
----------調理教室の様子を聞かせてください。
調理教室は食品加工実習工場で行いました。第1回目が生物生産学科の山元教授の包丁の研ぎ方についての指導です。山元教授は研究上の必要から、毎日のように刃物を研いでいるようです。2回目が、市内の割烹奈可越の社長の中尾氏。この時は130人もの学生を10:30から16:30まで指導することになり、大変でした。魚にはイサキを私が選んだのですが、少し早すぎたようです。またこの時までは、調理教室の骨格、つまり何を目的とるすかが今ひとつはっきりしない時期でした。手探りのなかで調理教室の骨格固めてきたのですが、その骨格とは、
1.水産食品士の調理教室は魚の肉質を食感を通じて理解するためのものであり、料理を覚えるためのものではない。
2.したがって調理教室は、切る、焼く、煮るの単純な作業のみで構成される。
3.調理教室で取り上げる魚はその時の旬のものとする。
4.調理教室を通じて、器具・調理場の洗浄消毒などの衛生技術の習得を目指す。
5.食感を通じて理解した肉質の違いを、的確な味覚表現で人に説明できるようにする。
などです。
こうして7月2日に8回目の調理教室を開講して、第一フェーズを終了しました。当初は、のこぎり引きしていた学生の手つきが短期間に見違えるようになり、一応の成果をあげたように思います。
指導者が作ったトラフグの刺身 学生が初めて作ったトラフグの刺身
----------どうも開始期の混乱があったようで大変でしたね。
ええ、調理教室には4名の若手教員が担当したのですが、それはもう大変で、「調理教室に忙殺されて本来の教育と研究が出来ない」と言った悲鳴があがってきました。また多勢の学生が包丁を同時に取り扱うのですから、事故の問題も気がかりでした。前者については補助者としてパートタイマーの方をお願いしましたし、後者については作業心得などの講習を行いました。それでも心配で、私なぞも学生の動きを2時間もかけて凝視するなどのエネルギーを使いました。
-----------水産食品士については、まだ聞き足りないようですが、次回に譲らせて頂きます。今日はありがとうございました。
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