English

お問い合わせ    交通アクセス    サイトマップ    トップページ
大学校の紹介  学科・専攻科・研究科  入学案内  キャンパスライフ  就職・進学  情報公開  研究・社会連携  入札・職員募集  水大広場  関連リンク  学内向け  
大学案内表紙画像
パンフレットの画像をクリックすると、大学案内デジタル版をご覧いただけます。
トップ研究・社会連携社会的貢献活動公開講座>第15回水産大学校公開講座
  公開講座

第15回水産大学校公開講座
ポスター画像
日時:
平成22年10月10日(日)13:00〜14:50
テーマ:
魚醤
−魅惑の水産発酵食品−

プログラム
水産大学校で開発した魚醤の健康増進機能性
魚醤から広げる食文化



※所属・職位・学位は、当時のものを掲載しております。
水産大学校で開発した魚醤の健康増殖機能性
水産大学校 食品科学科
教授 原田 和樹
 水産大学校の設置目的に、水産に関する研究と教育がある。そこで、食品科学科に所属する自分の研究テーマとして、10年前の着任当時、日本では滅びつつあった水産食文化の魚醤(魚醤油)を取り上げた。更に、卒業研究の教育の一環として、歴代の卒論生達と共に、下関特産の水産資源で魚醤を作ろうということになった。タイのナンプラーなど東南アジアの魚醤は有名であるが、その独特の癖のある風味は多くの日本人の喜ばれるとは言い難い。そこで、卒論生達からの希望として「生臭くない魚醤を作りたい」と申し出があり、私の中に、「生臭くなくては魚醤ではないだろう」という思いがあったが、卒論生達の意見を尊重した。一方、私の方からも、卒論生達に希望を出した。それは、ただ単に魚醤を作るだけでは、大学の卒業研究というには、あまりにも心もとない。そこで、高い健康増進機能性を持つ魚醤を作ろうということを提案したのである。
 まず、魚醤となる魚種選びであるが、下関の特産品の一つに「ふぐ」がある。幸い、ふぐ自体が、とても淡白な味わいで、魚そのものが生臭くない。そこで、魚醤を作る白羽の矢を立てた第一の候補が、ふぐであった。但し、ふぐは、そのまま刺身で高級に売れる素材である。わざわざ加工して魚醤にするメリットはないが、紆余曲折を経て、未利用部位を使い、ふぐの魚醤の試作に成功した。その後、下関の特産品である「くじら」、「うに」を使った調味料の試作に成功したが、試作段階から実用化まで辿り着かなければ、研究は未完成である。その後の展開が難しかったが、地場の下関の醤油醸造老舗であるヤマカ醤油株式会社や、うに加工老舗の小川うに株式会社の協力を得て、大量醸造および商品化が行われ、現在、「ふく魚醤」、「くじら醤油」、「うに魚醤」の商品名で発売中である。
 一方、魚醤が持つ健康増進機能性の探求であるが、機能性の中でも「フリーラジカルに対する抗酸化性」を中心に行った。主に、試験管内の実験方法を駆使し、ふぐの魚醤が試作できた当時は、ペルオキシラジカル捕捉活性能を見る「化学発光法」を使い、その後は、ヒドロキシルラジカル捕捉活性能を見る「電子スピン共鳴( ESR)法」の使用、ヒドロキシルラジカルによって損傷を起こす DNA分子部位から魚醤が持つ DNA防御能を調べる「脱塩基 DNA法」を東京大学と共同で開発、現在は、米国農務省( USDA)が推奨するペルオキシラジカル消去活性能を見る「オーラック( ORAC)法」や、浜松ホトニクス(株)中央研究所と共同で開発している「次世代食品機能性評価法」へと進化して行った。水産大学校で開発した魚醤群が持つ抗酸化性を含む機能性の特徴について、講演で紹介したい。



魚醤から広げる食文化
水産大学校
理事長 鷲尾圭司
 食品に関わる事故や事件が目につきますが、ほんとうに私たちの食生活はどうなるのでしょうね。そんな他人事のような言い方では済まないので、水産大学校でも現代の食について打開策を考えていきたいと思っております。
 今日のテーマは「魚醤」です。日本では、石川県能登半島の「いしる」、秋田県の「しょっつる」、香川県小豆島の「いかなご醤油」などが知られていますが、あまり一般には馴染みのない存在でした。しかし、東南アジアのエスニック料理には欠かせないものとなっています。
 日本人の間では、以前は馴染みのないことから「異臭のするもの」と感じられていたこともありましたが、渡航者が旅の土産話を持ち帰るに連れて馴れてきて、ベトナムやタイのスレンダーな人々の姿態と重なって、ヘルシーなイメージもできてきたのではないでしょうか。東南アジアの人がスマートなのは、彼らが肉食重視ではなく、米や野菜と水産物を中心に食べてきたからです。
 野菜の中でも果菜や根菜はそこそこ味があって、塩があれば食べられるものが多いのですが、葉菜の多くはあまり味があるとはいえず、塩だけでは味気ないものになってしまいます。経済的に豊かな人々は肉や魚、油の料理で味わい豊かにできますが、貧しい人々には魚醤が味付けに欠かせないものだったのです。
 しかし、魚醤といっても市販品では安くはありません。東南アジアで日本からの化学調味料が大流行していることは,実はその貧困層の味付けにうってつけだからです。そのため大量使用が当たり前になってしまい、健康被害(チャイニーズフード・シンドローム)が出るという問題が起きたわけです。逆に言うと、人間にとってうま味という味覚はとても大切だということを証明したわけで、そのうま味を得るために、人々は魚醤や穀醤を発明してきたのでしょう。
 米作りの水田や水路で獲れる魚やエビ類は、塩漬けしておくと発酵をはじめて魚醤になります。東南アジアのモンスーン気候は、発酵をすすめる麹や酵母、酵素などの働きやすい環境ですから、身近にうま味が得られて発達してきたのでしょう。
 しかし、発酵には臭いが付きものです。独特の臭いは、はじめてだと腐敗臭と区別がつかず、顔をしかめられます。しかし、それがおいしくて安全だと経験すると安心につながります。くさや、フナ寿司、納豆、ブルーチーズなど、臭いのに好かれる食べものは皆この臭いがポイントになっています。
 人類が生きるために食べものを開発してきた歴史と経験が詰まった臭いを制覇したとき、その人の食文化度は最も高みに至ることでしょう。