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  公開講座

第8回水産大学校公開講座
日時:
平成15年11月9日(日)13時〜
テーマ:
「水産食品の健康・安全性」

プログラム
講演:「食品のトレーサビリティ」
講演:「血栓・動脈硬化症と水産食品の機能性」
講演:「食品の安全をおびやかすもの」



※所属・職位・学位は、当時のものを掲載しております。
「食品のトレーサビリティ」 水産大学校食品化学科食品利用学講座
食品化学科講師
前田 俊道
 皆さん「トレーサビリティ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。トレース(後を追っかける)とアビリティ(できる)が合わさり「追跡できる」という意味です。そして「食品のトレーサビリティ」は、消費者側からスーパや店で売られている食品について、「いつ、どのようにして作られ流通したのか」が解ること、そして、食品を造った者の方から「どのように加工され、どのように店に運ばれ、消費されたのかを」を調べることができることを言います。
 近頃、新聞やニュースで、大腸菌O157、環境ホルモン、ダイオキシン、遺伝子組換え食品、無登録農薬、牛海綿状脳症(BSE)、そして外国産肉を国内産と偽った表示など色々な問題が報道され、食品について「本当に大丈夫なの?」と思わず不安になります。今、「食品のトレーサビリティ」は私たちの食品に対する不安を少しでも和らげ、安全性を確保する方法として注目されているのです。
 食品についての色々な情報から、消費者は製品を選ぶことができ、安心して食品を食べることができます。そして、トレーサビリティは生産者にとっても多くのメリットがあります。食品流通の広域化や複雑化にともない、ひとたび食品事故が起ると、その原因解明や流通経路の特定にかなりの時間がかかります。トレーサビリティが確立されていれば、すぐに不良食品を回収でき、被害の拡大を最小限にくい止めることができます。また、安全な製品までを回収せずに済み費用を節約できます。さらに、消費者の不必要な買い控えを防ぐこともできます。そして何よりも、昔の対面販売のように常に顔が見えるので、今まで以上に注意して食品を作れるようになります。食品は安全なことが当たり前なのですが、トレーサビリティをやっていることで製品を宣伝したり少し高い値段で売れることも実際にはあります。
 このようにトレーサビリティは消費者と生産者の両方にメリットのあるものですが、なかなか難しいところがあります。トレーサビリティは、生産者から消費者までの各段階の一貫した協力があってはじめてできるもので、途中のどの一つが欠けてもできません。以前から、「○○村の××さんが丹誠込めて造った△△です」と生産履歴を教えてくれる方法がありましたが、これだけではなく、どのように流通して処理・加工されたのかの情報も必要です。そうすると、沢山の情報をどのように整理するのかが大きな問題となります。
 また、本当にトレーサビリティができているのかどうかを検証する事も大切です。情報に嘘や偽りがあれば、やらない方がましでしょう。科学的な方法の開発も進んでいて、 DNA鑑定でウナギの原産国の判別ができるようになっています。さらに、養殖・天然の判別法や冷凍・生鮮の判別法も研究されています。
 この公開講座では、水産分野のトレーサビリティを幾つか紹介しながら、このような問題についてお話をします。牛肉については法律で平成16年12月から、店頭をはじめ焼き肉店、しゃぶしゃぶ店、すきやき店やステーキハウスなどで牛個体識別番号を知ることができるようになります。農林水産省は他の食品についてもトレーサビリティの普及を目指して、モデルシステムの実証試験やガイドラインの作製などの様々な活動をしています。また、任意制度ですが、トレーサビリティの第三者承認によるJAS規格制度も検討しているところです。このような背景のもと、水産食品についても、できるところからトレーサビリティを始めて行くことが大切と思います。



血栓・動脈硬化症と水産食品の機能性
食品化学科 教授
松下 映夫
 戦後の食糧難の時代はまさに食品の一次機能であるエネルギーと栄養の確保がやっとであったが、経済成長の時代を経てライフスタイルの多様化の時代を迎え、量から質への変換、二次機能すなわち個性を重視したグルメを追及する時代へと食品の役割は変遷してきた。そして、現在は、老齢人口の急増や生活習慣病の増加と国民意識の健康志向などにより、食品の第三次機能である疾病予防・健康増進機能が益々注目されてきている。
 加齢や遺伝的な体質に加えて、運動不足、様々なストレス、偏った食生活など日頃の生活習慣のあらゆる側面が実に様々な疾患の発症に大きく関与している。中でも毎日繰り返し行われる食事に知恵を盛り込むことで、生活習慣病を予防したり発症時期を遅らせたりする「知的食生活」の実践こそが、現代人にとって必要なことである。
健康食品の開発競争(「トクホ・バトル」)の時代
 この不況下でも、例えば、K社のアミノ酸サプリメントがヒット商品になるということがある。消費者の意識も非常に敏感で、単に「体に良い」というのではなく、「具体的な成分や効能」を謳った商品がヒットする時代になった。特に、「トクホ」と呼ばれる「特定保健用食品」からはヒット商品が多数誕生している。「特定保健用食品」とは厚労省が「保健の用途・効果」を表示することを許可した生活習慣病を回避するように工夫した食品である。高齢化・医療費負担増を受けて健康ニーズの益々の高まりを背景に、各社とも保健機能食品市場は今後の安定した成長が見込まれるとして、熾烈なトクホ製品開発競争の時代に突入してきている。例えば、トクホ・ガム戦争(L社、G社、W社)の例に見られる様に、その効能についての比較広告・宣伝をめぐって公取委や地裁に提訴しあう事態にまでなっている。また、マヨネーズでは最大手のQ社に対して、コレステロール対策をしたトクホ・マヨネースの臨床試験データを持ってK社とA社が戦いを挑んでいる。健康食品事業への様々な企業の参入の動きも活発化しており、最近のトクホ・健康食品関係のニュースの多さに驚かされる。
血栓・動脈硬化症について
 生活習慣病の中でも、高脂血症、高血圧、糖尿病、肥満、は「死の四重奏」と呼ばれ、血栓・動脈硬化の進行が原因となって、脳梗塞、狭心症・心筋梗塞、大動脈瘤などの命にかかわる脳・心疾患を引き起こすリスク・ファクターといわれている。中でも日本人の食生活の変化に伴って、血清コレステロールの上昇(高脂血症)が最近著しく、米国と逆転する勢いであることは大きな懸念点である。欧米の各種大規模臨床試験により、高脂血症の治療は脳・心疾患の予防に有意義であることが証明されている。高脂血症は血管壁に脂質が沈着して瘤の様になり血管の動脈硬化を引き起こし、更にこの様な血管には容易に血栓ができるため、正常な血液の流れを妨げ、その下流にある細胞・組織が壊死(酸素・エネルギー遮断による死亡)するため、上記の脳・心疾患は「虚血性疾患」と呼ばれている。演者らはこの「血栓」を生じる際の引き金となる「血小板凝集のメカニズム」と「血栓の生成を抑制する食品成分」に関する研究を行っている。
魚主体の日本型食事の長所と魚油の健康機能性
 穀類、魚介類の占める割合が大きい伝統的日本型食事では生活習慣病になりにくいため、その健康性が欧米より評価されている。しかし近年の食生活の欧米型(穀類摂取の減少と畜産物への依存)への傾斜、また、若い世代の魚ばなれは伝統的日本型食事のメリットを生かしていないといえる。グリーンランド先住民(イヌイット)の疫学調査から魚介類の摂取、特に魚油が生活習慣病の予防と関係することが証明され、魚油(不飽和脂肪酸:EPA・DHAなど)の健康機能性が注目されている。米国心臓学会(AHA)は昨年末に、「心疾患予防に魚油を摂取しましょう」という声明を出している。中でもDHAは血管から脳神経系取り込まれやすいため、血栓抑制に加えて、神経系の賦活・改善作用があると基礎(ラット)および臨床(ヒト)試験の研究データ発表されている。この老人性痴呆症の改善効果は興味深い知見である。
 不飽和脂肪酸には二つのタイプがあり、EPAやDHAなどの魚油成分はn−3脂肪酸と呼ばれている。もう一方のタイプは、アラキドン酸などn−6系の脂肪酸であり、ヒトの体内で局所ホルモン様の重要な働きをするが、過剰に作用すると逆に生体に悪影響を与えるプロスタグランジン類を生成する。魚油(n−3脂肪酸)の摂取はこのn−6脂肪酸の作用を抑制することで健康機能性を発揮するといわれている。n−3脂肪酸とn−6脂肪酸の摂取バランスが健康維持に重要である。
健康食品の安全性と有効性
 健康食品イコール安全という認識は大きな間違いである。医薬品では副作用報告が強化されており、その情報がすぐ入手できるが、健康食品の副作用や危害状況は調査さえも行われていない場合が多い。最近も健康食品中に健康危害物質(医薬品成分)が含まれて、摘発を受けた例があった。
 健康食品の効能についても怪しげと言わざるを得ないものも多く存在する。医師やマスコミ報道も必ずしも正しいとは限らない。試験管内や動物レベルの基礎実験の結果がヒトにあてはまらない場合が多い。医薬品は「二重盲検法」という臨床試験で有効性が証明されないと許可されない。偽薬(プラセボ)でも効いたという結果が出るからである。食品においてもきちんとしたデータに基づいた情報であるかという情報源の信頼性検証の必要性は大きいであろう。
おわりに
 魚油のみならず水産物・水産食品には多くの健康機能性成分が含まれており、更に機能性成分の有効利用が期待される。水産食品においては、「トクホ」製品として開発された例は比較的少ないようである。「トクホ」製品も含めて、水産食品の健康機能性を謳って、新規商品を開発していく場合に考えるべき課題についても、私見ではあるがふれてみたい。



食の安全をおびやかすもの
食品化学科・教授
芝  恒男
 「食の安全を脅かすもの」、少し大きすぎる演題をつけてしまったのかもしれません。大きなと申しますのも、「食の安全を脅かすもの」には実に様々なものがあるからです。そこで実際の話はもっと焦点を絞って、何故現代になっても食品の安全の問題から開放されないのか、そして何故今なのかに絞って「脅威」をお話ししたいと思います。
 終戦後の昭和25年、私がちょうど一歳の時ですが、日本では食中毒による死者が370人もいました。東京には焼け野原がいたるところに残っていたころで、メタノールをお酒のかわりに飲んで死んだ人が74人もいたことからも分かるように、食糧状態も、そして衛生状態もきっと悪かったのだと思います。しかし、社会が安定し、衛生状態が良くなるにしたがって死者は激減し、昭和56年には死者は12人にまで減少し、そしてついに昭和62年には5人にまで減少しました。衛生状態が良くなれば、食中毒も減るだろうとする私たちの予感が証明されたかのような出来事でした。
 しかし皆さん、平成14年の食中毒の死者は18人もいるのです。そして食中毒の患者数は25,000人余り。なんと昭和25年の患者数19,900人余りよりも多くなっているのです。改善神話は見事に打ち砕かれ、さらに昨今の狂牛病のような、なにやら得たいの知れない恐怖に私達はさらされ始めているらしいのです。一体、どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。
 私たちが食中毒の恐怖から開放されずに、むしろより大きな脅威にさらされ始めたのは、どうも私たちの食生活が豊かに、そして便利になったことと関係があるようです。卵を例にあげてみましょう。私が小学生の頃は、目玉焼きが大御馳走でした。庭で鶏でも飼わなければ、卵を食べるのは大変困難でした。それが今日ではどうでしょうか?卵は1個15円くらいでしょうか。決して高いものではありません。これは鶏がケージで大量飼育され始めたことと大きく関係しています。しかしながら卵が安くなるにつれて、それまで私達が余り経験しなかったサルモネラ食中毒が増え始めたのです。
 もうひとつ例をあげてみましょう。統計を見ると、2000年の日本の穀物自給率は28%でしかありません。輸入に多くを頼っている訳ですが、1975年に比べると輸入食品全体の件数は約6倍にまで増えています。しかしこの輸入食品の急増が色々なトラブルを起こしています。国が違えば食品衛生の規制も違いますし、また長い距離を運ぶのであれば、保存などで工夫が必要です。許可されていない添加物の混入が問題になっています。
 食の安全に関することには、このほかにアレルギーの問題や,遺伝子組み換えの問題があります。これら問題を、何故と問いかけながら見ていくととも、今国がどのような施策をしようとしているのかも紹介しましょう。皆さまの御静聴をお願いします。