フェスタに期待すること    理事長 鷲尾圭司

2010年5月17日 掲載

 昨年、下関に来て、金子みすゞさんの作品によく触れるようになりました。「大漁」や「鯨法会」などは水産ネタでもあるので、魅かれるきっかけになったものです。その他たくさんある中で「不思議」という作品が印象に残っています。
 作者は、黒い雲から降ってくる雨が銀色に光ることや、青い桑の葉を食べている蚕が白い繭にくるまれることなど、「不思議でたまらない」と表現し、そのことを誰に尋ねても笑って「あたりまえだ」という返答に困惑しています。 
そういえば自分でも子どものころにふと思いついた疑問を、大人に投げかけてはぐらかされた経験があり、みすゞさんの困惑に共感を覚えます。ぜひ原作を読んでみて下さいね。

 京都育ちの私は、これまで関西を中心に暮らしてきました。下関で最初に食べたざる蕎麦に衝撃を受けたのです。蕎麦つゆが甘かった!



 
 私は不思議でたまらない、
 つゆが決め手の蕎麦にして、
 甘い味とはこれいかに?
 まわりにきいても不審そう、
 あたりまえだと澄ましてる。


 今回のテーマは「ところ変われば、好みも変わる」ですが、そのカルチャーショックを一年前に受けたわけです。
 下関の皆さんには「あたりまえ」と思っておられるものが、他の地方の者には「不思議」なものでもあるわけですし、逆に皆さんが下関から関西や関東に出かけられたとき、味わいに違和感をもたれて、帰ってから「うまみ醤油」を使った料理にほっとされる方も多いと思います。
 
 講師の野瀬さんは、そんな人々のあたりまえと違和感を確かめに、東京から京都まで歩いて旅をされて食の境目を検証されたり、最近評判になっているB級グルメの地域対抗意識の追跡調査をされたりしています。
 その著書には、『全日本 食の方言地図』や『天ぷらにソースをかけますか?』などあって、興味深いお話が伺えることと楽しみにしています。

 フェスタはスペインの文化です。フランスやイギリスのような先進富裕国とは言い難い国ですが、心豊かな魅力的なところだと聞いています。苦しく厳しい暮らしの中でも、シェスタとフェスタを大事に生活が組み立てられています。
 シェスタというのはお昼寝、フェスタはお祭りです。嫌なことやストレスにばかり意識していられないので、眠ってからだを休め、お祭り騒ぎで発散する。今の日本人にも必要なこころの処方箋ではないでしょうか。
 
 今回は、食という皆さんの関心事をもとにフェスタで楽しんでみましょう。とくに、視点を変えてみて、何気ない不思議を掘り下げてみましょう。あたりまえでは見えてこない楽しい発見があるかもしれません。
 

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