「生物無機化学」(授業紹介:甲斐准教授)
    2008年9月2日 掲載

今日は、食品科学の講義内容の一環として、甲斐准教授が担当されている「生物無機化学」の講義概要について聞きました。

質問1 学科改組にともなって新設された科目と伺っていますが?
    何年生を対象とした科目ですか?

遺伝子工学とともに、3年生を対象として開講しました。


本年4月にオープンした本校新講義棟

質問2 あまり耳慣れない科目名ですが?そもそもいつ頃誕生した
   学問なんでしょうか?

いきなり構えた質問ですね!
生物無機化学 (Bioinorganic chemistry) または無機生物化学 (Inorganic biochemistry) といわれる分野は、1970年頃から誕生した比較的新しい学問体系です。ですから、私の大学生時代にこのような科目は開講されていませんでしたよ!現在、日々勉強中なのが事実です(笑い)。

質問3 時代を先取りして、いち早く本校の座学に導入されたわけで
   すね!

 そのとおりです!(自画自賛!笑い) といいますか、私は当時学科カリキュラム改組の担当委員でした。私や花岡教授の研究とも関連する上、このような内容を持つ座学が本校はおろか、他大学でも開講されてなかったこともあり、提案した次第です。結局、言い出しっぺということで即受理され、現在も担当しているところです。


武蔵と小次郎の決闘の舞台となった関門海峡を擁する下関

質問4 その学問体系の誕生の経緯、名称の由来は?どのような学問 
    体系ですか?

矢継ぎ早に、またまた構えた質問ですね!
そもそも” bio” と”inorganic” は、生物と非生物、有機物と無機物に対応するものであって、化学の歴史的発展過程の中でも、最も相反した、最も異質なものの代表でした。ここは御理解いただけますね?その一見奇異にみえる両者が結びついたところに、新しい問題点が生じて、学際領域として成立する点が非常に興味深いところなんですね。
 無機・分析化学者は、元来できるだけ簡単な無機化合物を研究対象としてきました。したがって、錯化合物も比較的小さな配位子を有する、解析しやすいものを対象にしがちであります。しかし、天然には大きな生体高分子が配位子となった錯体(クロロフィル、ヘモグロビン等)が存在しているわけです。小さな金属錯体をモデル化合物として、天然の大きなー生命の神秘を担っているー錯体をどこまで説明できるかという立場から生物無機化学の研究分野が生まれて来ました。


下関市長府の壇具川に生息する鯉たち

一方、生物化学者は、当初、生体高分子の中にわずか1, 2個存在している重金属元素はたぶん不純物であろうと考えていました。しかし、やがてそれが生体内で極めて重大な役割(金属酵素等)を果たしていることに気づき、微量金属または無機成分に着目して、無機生物化学の研究分野が生まれて来ました。

質問5 他に生体無機化学、無機生体化学、生命の無機化学等の単
    行本が出版されていますが?内容が違うのでしょうか?

結局、出発場所は異なるかもしれませんが、研究対象はみな同じなんですね!これまで、いわれるように、似たような名称の単行本が出版されていますが、私は専門柄、生物(あるいは生体)無機化学という座学名にこだわっています。いずれにしましても、遺伝子工学やこの分野の発展もあわせて、近年、複雑な生命現象が『化学』の言葉で説明できるようになってきています。特に、微量元素についての知見は次第に増え、生体におけるその生理的機能と発現の機構が明らかにされつつあります。


生命の起源 - 海・・・・本校に隣接する日本海

生命の起源は無数の金属元素を含む海にあるわけですから、生物と金属元素の関わりは当然といえば当然のことなんですね!むしろ、特定の元素だけを生体内で利用して進化してきたことに生命の神秘を覚えます。

質問6 なるほど!なるほど!生物が進化する過程で種々の金属元
   素が関わっていたとは・・・!非常に興味があります。ただ、
   かなり「化学」の知識がいるようなので難しすぎませんか?

 図書館に閲覧している単行本をご覧ください。おっしゃる通り、この学問分野を100%理解するには、かなりの化学のベースが必要ですね。しかし、本講義内容は純然たる生物無機化学の講義ではありませんよ!お間違えなく!ここでは、私や花岡教授の研究と関連づけて、その入り口、
”触りの部分”に留めています。 すなわち、生体関連元素の体内分布、代謝、食品との関連がメインであり、この中で種々の必須微量元素について概説しています。皆さんの大好きな(?)化学反応式と計算は一切含まれていませんのでご安心して下さい。他学科に入学希望される学生さんにも十分理解できる内容ですよ!

写真
卒論研究の一風景・・・・・微量必須元素のセレンの状態分析

ここ数年、選択科目にもかかわらず、この分野に興味を示す(?)受講者が急増しており、また試験の合格率は毎年90%以上です。ちなみに、来年度から残念ながら1単位になりますが・・・・・。
単位に関係なく、この分野に興味のある学生さん!是非受講して下さい。
待っていますよ!
取材後記
 ガチガチの質問を投げかけましたので、しっかり受け止められた回答が戻ってきました。大変勉強になりました。ありがとうございました。

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