研究紹介:甲斐准教授
今日は、食品科学科甲斐准教授のこれまでの研究概要、現在実施されている研究の概要と今後の展望について聞きました。
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関門海峡にて・・下関から門司を望む(壇ノ浦PAから撮影) |
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質問1 これまでの研究概要をお聞かせ下さい。 私は本校に赴任する前、九州大学理学部化学科分析化学講座の姉妹講座である放射化学講座で、学位を取得しました。テーマは、結晶中の鉄イオンと隣接する格子欠陥の関連についてであり、γ線共鳴吸収を応用した分光法(メスバウアー分光法)を軸に、X線マイクロアナライザー、X線回折、超高圧電子顕微鏡、ESR、DSC等の大型微量分析機器を利用した研究でした。学生時代の専門は、実は放射化学、物理化学、分析化学なんですよ!知らなかったでしょう! 本校赴任以来、分析化学屋ということもあり、毒性元素としての水銀とこれを無毒化することが通説となっている必須元素としてのセレンにターゲットを絞り、これまでに校費による研究はいうまでもなく、科技庁(現文科省)や九州大学と、海洋生態系を対象に、環境分析化学的研究、さらには餌料開発を目的として宮崎大学や某大手企業との共同で微量金属栄養学的研究を行ってきました。 特に、十数年前になりますが、それまで閉ざされていた農林省農林技術会議との連携が可能となった最初の年に、本校ではじめて花岡教員とともに外部の資金(科技庁振興調整費)獲得による大型プロジェクトに参画できた時は、特に印象に残っています。 一方、微量分析(赴任初期はメチル水銀、現在はセレン)にあたり、密封線源63Niを装備したガスクロを利用していること、加えて、博士時代に取得した第一種放射線取扱主任者免許のおかげ(?)で本校RI使用施設の安全維持・管理等を永年担当させていただいています。 |
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体育館側から観た本校中央キャンパス |
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質問2 現在実施されている研究を簡単にご説明ください。 最近になり、水銀の水産物への影響が、国内外でまた話題となっており、蓄積性のあるこの元素の特性が改めて指摘されています。すなわち、自然環境下に棲息する水棲生物によっては、高濃度に蓄積されている種があり、イメージが悪い上、これを過度に摂食すると我々の健康を阻害する可能性が警告されています。一方で、必須微量元素のセレンは、水銀、カドミウムのような毒性元素と拮抗作用を示し、無毒化することが知られています。この2点をベースに考えると、閉鎖環境下の養殖魚では、その養殖形態は異なっていても、単一餌料のみで飼育されているため、同種の天然魚と比較して水銀等の蓄積を低減化させられる上、さらにその水銀と結合して解毒物資(セレン化水銀: HgSe)を生成する際に要するセレン量もより低いことが推察されます。 |
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下関長府 檀具川にて・・ 泳ぐ鯉を眺める鴨たち |
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セレンの他の効用としては、抗ガン作用、老化防止、美肌維持等があげられています。つまり、セレンは必須元素であり、同魚種であれば、天然魚も養殖魚もその総レベルに差は無いので、先の予察から、養殖魚の方に、総レべルと水銀無毒化に消費されるセレン量の差、すなわち我々にとって有用性の高い(高酸化状態の)セレン化学種がより多く存在することが期待されます。 そこで、平成18年度からは、養殖魚を対象として、大型精密機器を駆使した両元素の超微量分析を行うことにより、養殖魚における水銀の蓄積性を検討するとともに、可食部、非可食部いかんに関わらず、有用セレン化学種の探索を行っています。 質問3 今後の研究の展望についてお願いします。 目標を達成するには、今後、本研究と異なった条件(飼育環境、給餌形態等)下で飼育された養殖魚、また本研究と同様な条件下で飼育された他養殖魚から得られる様々な知見を統合して議論する必要があるでしょう。それによって、セレンの効用が天然魚より期待される養殖魚の消費推進に繋がるでしょうし、天然魚を含めた非可食部・未利用部としての鱗からのセレンの有効利用が期待されると思います。たとえば、それを利用した機能性食品等の調製さらには養殖業界では養殖魚の健康促進を目的とした餌料の開発等に寄与するものと考えられます。 質問4 鱗に有用なセレンが多いとは初耳ですが?? おそらくそうでしょう!昨年度、本年度を通して本研究に供している養殖魚で明らかにしています。現在、スカール(鱗)コラーゲンを利用した化粧品が市販されています。過去に、飼育環境下のクラゲ外傘部にも有用セレン化学種の優位な存在を認めており、共通の構成成分であるコラーゲンタンパク中の含硫アミノ酸残基へのセレンの取り込みを伺わせています。 もしかすると現在騒がれているコラーゲンの効用はイコール(あるいはプラス)セレンの効用であることも期待され、非常に興味深いところですね! 質問5 最後にこれからの抱負を御願いします。 現在まで、年々研究費が縮小される中、様々な内外の共同研究者(共著者)の御協力を受けながらも、修士時代の研究から約33年経過しますが、毎年細々と研究成果を論文公表してきています。仮に、研究費がゼロになっても、今後の学生の教育と論文発表だけは、自己負担してでも対応する所存です。大学教員に課された本務として!! そこで、子供的発想かもしれませんが、定年を迎えるまでに、学術論文だけでも切りのいい数で100報はクリアできればと考えています! 取材後記 シビアに熱弁され、感動しました。今回笑う場面が最後までなく、大変刺激的に、受け取れました。ありがとうございました。 |