「水産伝統食品科学」(授業紹介:原田教授)

2008年9月30日 

原田先生! お久しぶりです。すっかり、インタビューに先生のお姿をお見掛けしなくなっていました。インタビューがお嫌いになったのですか?

いえいえ、他の先生方の活躍で、私の出る幕がなくなったのです。

さて、今日は、明日の後学期から始まる先生の授業科目「水産伝統食品科学」の内容について教えて下さい。

この科目は、3年生対象の選択科目なんですが、水産食品士の認定科目の一つになりましたので、今年の受講生は多いと思います。

そもそも、「水産食品士」と「水産伝統食品科学」との繋がりを教えて下さい。


学科長の芝教授も言われる様に、水産食品士が学ぶ魚の捌き方などの技術ですが、これは、日本独自の食文化を支えた包丁技術が基本なのです。じゃ、日本の伝統的な食文化は何かという事を学ぶ科目です。

具体的には、どんな授業内容ですか?

そうですね、例えば、奈良時代の正倉院文書の食品に関する記述の中で、動物性食品の魚については、鰯(イワシ)や年魚が出て来たりするんですよ。その年魚が今の鮎だといった事を勉強するのですよ。

ヘーぇ、食品科学科って理系の学科と思っていましたが、まるで文系の授業ですね。

そうなんですよ。その他、日本の料理文化の変遷、例えば、鎌倉時代の精進料理を経て、安土・桃山時代の懐石料理から江戸時代の会席料理に移り変わる歴史も勉強するんですよ。

そうすると、歴史上の事を勉強するので、一旦、講義ノートを作ってしまえば、毎年同じ事を講義すればいいので、原田先生は、楽できていいですね。

ところが、そうも行かないところが、水産伝統食品の奥の深いところなのですよ。毎年、新しい発見があって、講義ノートを改訂しています。

どんな新しい発見があるのですか?

そうですね。去年まで私が知らなかった事として、長崎県雲仙市の橘湾沿岸の地域に独特の水産物の食文化があるのです。

へえーっ!

カタクチイワシという魚があって、主に「いりこ」の原材料なのですが、大きくなり過ぎたり、脂が乗り過ぎたりすると、「いりこ」にならないので、塩辛にするのです。その塩辛の事を、「カタクチイワシ」の地方名の「エタリ」を使って、「エタリの塩辛」というのです。明治時代から雲仙地方に続いている水産伝統食品文化だったのですが、その「エタリの塩辛」に新たに脚光を浴びせたのが、エタリの塩辛愛好会事務局の竹下敦子さんという人なのです。ところで、インタビューしているあなたはスローフードという言葉を知っていますか?
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「エタリの塩辛」の原料となるカタクチイワシ

etarino siokara
「エタリの塩辛」を作っているところ。稲藁をかぶせて作る伝統的な手法

はい! ハンバーガーなどのファーストフードに対する言葉だと聞いています。

それだけでは不充分です。スローフードとは、1.消えつつある質の良い食品・食材・料理を守る。2.子供を含めた消費者に味の教育を進める。3.質の良い素材を提供してくれる小生産者を守る、という定義があるのです。これは、イタリア発祥の思想で、国際的なスローフード協会の本部がイタリア北部のピエモンテ州という地にあります。竹下敦子さんの長年の尽力が実り、そのイタリアのスローフード協会本部から、「エタリの塩辛」は「食の世界遺産」とも称される「味の箱舟(アルカ)」計画に登録されたのです。

その事を授業で教える訳ですね。

いえいえ、話はそう簡単ではないのです。その「エタリの塩辛」が世界的なスローフードとなった秘密の解明のお手伝いを、水産大学校食品科学科で行ったのです。

へえーっ! その秘密とは何だったのですか?

それは、「エタリの塩辛」が持つ健康増進機能性の一つである抗酸化能(体を錆びさせない力)が非常に高かったのです。それを、水産大学校食品科学科で解明して、先程の竹下敦子さんが、水産大学校食品科学科の私や前田俊道准教授、講座主任の福田裕教授、ウチのラボの大学院の学生さんとの共同研究として、今年の8月末に名古屋市の椙山(すぎやま)女学園大学で開催された日本調理科学会平成20年度全国大会で、講演発表されたのです。
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水産大学校食品科学科の4年生の学生さん達も、日本調理科学会全国大会で講演発表しました

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日本調理科学会全国大会で講演発表するエタリの塩辛愛好会事務局の竹下敦子さんの発表風景

すごい内容だったんですねえ・・・。

そういう最新の研究成果も、「水産伝統食品科学」の授業で教えているのですよ。

「水産伝統食品科学」は古くて新しい学問分野の科目なのですね。先生の授業がこれから楽しみです。今日はどうも有難うございました。

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