「水銀と微生物」(授業紹介:芝教授)
2008年8月26日 掲載

休み時間のキャンパス

今日は食品科学科の講義内容の紹介の一環として、芝教授に6月に行った大学院での講義「水銀と微生物」について聞きました。

---------水銀と言うと中毒が思い浮かびますが、微生物との接点が分かりません。何故このようなタイトルの講義をしたのでしょうか。
 微生物学の講義だったのですが、海洋機械工学科の学生さんも受講されていたので、何か一般的な話題のなかで微生物の話を出来ないかと思ったのが切っ掛けです。

----------海洋機械工学科の学生さんも受講するんですか?

 ええ初めてのことで面食らいました。いわばオイルの匂いと微生物では、石油分解菌でしか接点がありません。通常、大学院の授業ですと論文を学生に読ませたりするのですが、今回はそれを止めて、講義形式の授業となりました。

-----------水銀が舞い落ちてきた結果、地面の水銀濃度はどのくらいになっているのでしょうか?
 熊本大学のデータによれば、九州南部の海底の水銀濃度は、殆どが0.05ppm以下だと言う数字が出ています。(文献3)

------------海底の水銀は直ぐに魚にとりこまれるのですか?
 海底にすむ硫酸還元細菌の働きで一部がメチル化されて(文献4)魚に取り込まれることになります。

------------硫酸還元細菌とはどんな細菌ですか?
 絶対嫌気性、すなわち酸素の無い環境でしか増殖できない細菌です。今では無くなりましたが、汚濁の進んだ真っ黒の川では泡が水面に出てくるのをよくみましたが、あの泡に関係していたのが硫酸還元細菌です。

-----------だとすると海底の酸素濃度を高くしてあげれば、メチル水銀は発生しないのでしょうか。
 完全に止めるのは不可能です。いくら酸素の通気をよくしてあげても、団粒と呼ばれる粒子の集まりの内側には嫌気的環境が発達してしまいます。

----------だとしたら、その団粒を壊せばよいではないですか。
 そんなことしたら、海底全体の通気が悪くなって益々嫌気的になってしまいます。つまり自然の摂理のなかで水銀が生物の間を循環していることになります。

水銀と上手に付き合っていくしか方法がないようですね。どうも有難うございました。



文献1;「平成15年6月3日に公表した「水銀を含有する魚介類等の摂食に関する注意事項」について(Q&A)」 厚生労働省医薬局食品保健部基準課

文献2;Mercury Contamination of Aquatic Ecosystems. Fact Sheet FS-216-95, U.S. Department of the Interior?U.S. Geological Survey. (1995)

文献3;http://www.lib.kumamoto-u.ac.jp/suishin/mercury/05/05index.html

文献4;G. C. Compeau and R. Bartha. Sulfate-Reducing Bacteria: Principal Methylators of Mercury in Anoxic Estuarine Sediment. Appl Environ Microbiol. (1985) 50: 498-502

----------どんな内容の講義になったのでしょうか?
 地球環境中での水銀の循環に微生物が関与していることを話したのです。
 水銀には無機水銀と有機水銀があります。なかでも毒性が高いのはメチル水銀ですが、摂取される水銀がすべてメチル水銀だと仮定して計算すると、日本人の平均的メチル水銀摂取量は、50kg体重の人ですと1日あたり8.4μgだと言われています。この値は厚生労働省が設定したメチル水銀の暫定的耐容週間摂取量から換算される1日あたりの摂取量24μgの35%に相当します。そしてこの摂取される水銀の殆どが魚由来なのです。(文献1)

----------どうしてメチル水銀の毒性が高いのですか?
 メチル水銀は一旦身体に取り込まれると排出されにくいからです。

----------どうして魚から摂取されるのでしょうか?
 それが講義の主題です。水銀と言うと、直ぐに公害の問題だとで考えられがちです。しかし公害がなくても、水銀は地球環境中に存在します。水銀は火山の活動により大気に放出され、降雨などに伴って地面や海に降り注いでいます。

----------え、水銀が空から落ちて来るんですか?
 はい。米国のウイスコンシン州にある湖沼を例にした推計によると、約11万平米あたり、1年間に1gの水銀が舞い落ちているようです。丁度、水銀温度計に使われている量が舞い落ちていることになります。(文献2)

-----------大変な量が落ちて来るんですね。
 そう思われますか。そう思うのは、11万平米と言う広さと1gのコントラストが実感出来ないからではないでしょうか。11万平米と言うのは、水産大学校の敷地の約半分です。1平方cmあたりに換算すれば、とても小さな値になります。実際、自然環境中の水銀は微量なので、測定するのが大変難しいとされています。衣服についている水銀の方が多いかも知れません。ですから自然環境中の水銀を測定しようとすると、特別の防護服を着なければならないほどです。
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