研究紹介~芝恒男教授に聞く

2008年9月7日 掲載

 経済産業省の地域資源活用型研究開発事業に無菌魚肉の研究が採択され、おめでとうございます。そこでお聞きしますが、どんな計画でしょうか。
 有難うございます。㈱あじかん、㈱奈可越、㈱ヤナギヤ、山口県水産研究センター、山口県農林総合技術センターが参加する2年間でおよそ5千万のビッグプロジェクトで、無菌魚肉を商品化するための開発研究です。

随分色々な機関が参加するのですね
ええ巨額のお金を使うこともさることながら、色々な機関を巻き込んでいるので責任を感じています。特に企業の場合はビジネスにならなければ、損失になります。なんとしてでも商品化を達成しなければいけません。

ところで、どんな研究ですか。
ひとつは無菌魚肉の熟成、2番目が包装方法の開発、そして製造機械の開発などです。熟成研究ではトラフグ、マフグ、アマダイを使って最大100日までの熟成過程を調べます。遊離アミノ酸や核酸類の組成変化を調べます。すでにご紹介しているように無菌魚肉の熟成では、微生物がゼロなので、腐敗を抑えるための食塩が不要です。また自在な温度・期間で熟成させることが出来ます。そこで温度・期間を変えてどんな熟成魚肉が出来るかが楽しみです。
 
 kousya  
 微生物研究室からの風景
左から;研究棟1,研究棟2、学生寮(一番奥)、図書館
 
   
 熟成魚肉の見通しはどうですか
非常に明るいし、無限な広がりを感じます。0度、4度、10度でトラフグを熟成させていますが、0度40日では通常の新鮮なトラフグと一切変わりはありません。一方4度になると、旨味が増してきます。先日も周南で試食会を開催しましたが、4度の方の人気が高かったようです。

包装方法の開発ではどんなことをしますか。
真空包装した魚肉は包装材を透過して侵入する酸素の働きで酸化劣化します。ですから酸素透過性の低い包装材が効果的ですが、これまでは魚が細菌の働きで腐るので1週間保存でしか効果を調べることが出来ませんでした。無菌魚肉ではもっと長期間調べることができます。

製造機械の開発では、どんな機械を開発しますか
トラフグの外皮を剥ぐ操作を簡便化するための機械です。魚肉を汚染させずに外皮を剥ぐには2人で作業する必要がありますが、これですと人件費がかかってしまいます。また製造速度も速くありません。そこでこの操作の一部を自動化して、製造コストを下げる計画です。

始めに商品化といいましたが、どんな商品を開発しますか。
販売商品としては、贈答品が有力です。飛行場で持ち帰りが可能な刺身を売ることが出来ればすばらしいと思います。無菌魚肉であれば可能です。

無菌魚肉はやはり刺身として食べるのですか。
ええ、刺身を基調に考えていますが、洋食への利用も考えています。オイリーなカルパッチョやレモンと塩をベースにしたセビーチェなどです。カルパッチョは確かイタリア、そしてセビーチョはラテン系の国での生魚の食べ方です。要はワインやウイスキーなどと一緒に食べる生魚を開発したい。

カルパッチョは知っていますがセビーチェは初めてです。
ええ私も去年までは知りませんでした。知ったのは、南米からの研修生と「刺身と酒」について話しているときで、ペルーからの人が日本酒の体験をとうとうと述べてから紹介してくれたのが、セビーチェです。南米の人は異口同音に『すごく美味しい』と言います。私も試してみましたが、すごく美味しい。日本で広まらないのが不思議です。

洋食への利用は、消費を拡大するためですか
そうです。それともうひとつ。無菌魚肉では味の強い生魚を作ることが出来ます。これらは新鮮な刺身を食べなれた日本人が受け入れるには時間がかかるかも知れません。そこで生魚について先入観をもたない国々で販売するのもひとつの手かなと思います。
 
 PCR souchi  
 微生物研究室の遺伝子増幅装置(PCR)  

随分と実業的ですね。
はい。これまで続けてきた微生物学研究からすれば、随分と内容や雰囲気が変わってしまいました。でも社会への貢献を考えれば、これも進むべき道だと思います。

有難うございました。