●国際家政学会に出席して
2008年8月7日掲載
今日は、スイスの国際家政学会から帰国されて間もない原田和樹教授にインタビューしました。
Q:そもそも家政学会という言葉に馴染みがないですし、水産大学校との繋がりが今一つ、ピンと来ませんが、そこら辺のところから、お話を伺えると有難いのですが・・・。
回答:えーっとですね。家政学とは、昔は女子短大や女子大に設置してあった学問分野で、例えば、ファッション(被服)、住居、環境、家庭経済、児童、高齢者福祉など、家庭におけるさまざまな問題点を研究対象にする学問です。その研究対象の中に「食品」が含まれるのです。やはり、「生活」と「食」は切っても切り離せない関係にあると思います。恐らく、食品に興味のある皆さん方には、管理栄養士養成を目的とした大学の先生方が所属して研究発表している学会といった方が、ピンと来るかもしれませんね。
その家政学という学問がスイスで勃興して、丁度、今年で100年目を迎えますので、それを記念して、家政学発祥の地スイスで「国際家政学会議100周年記念世界大会(IFHE2008)」が開催されて、それに出席して講演発表して来ました。
国際家政学会議が開催された
中世の面影を色濃く残すスイスの街ルツェルン
学会が開催されたスイス・ルツェルン市にある
国際会議場の前で共同研究者の先生方と
Q:なるほど、家政学会のことは良く判りましたが、まだ、水産大学校との繋がりが見えてきませんが・・・。
回答:私達の学科は食品科学科ですが、習得できる資格は、「水産食品士」や「技術士補」などがあり、学生さん達はその資格を持って、食品企業の品質管理部や商品開発部などに就職して行きますが、目指す製品の出口は、やはり美味しい安全な、更に言えば、健康増進機能を持つ食品を創造することです。それは、「管理栄養士」を養成する大学でも同じで、目指す方向性では、オーバーラップする部分があるのです。
今から4年前、管理栄養士養成校である東京家政大学大学院教授の長尾慶子先生の調理学研究室と共同研究を始めて以来、ずっと、私の研究は、長尾先生にアドバイスを頂きながら、調理学や管理栄養士としての視点も踏まえて水産伝統食品の研究を続けているのです。
講演が終わった後の質疑応答の風景。
原田教授のそばに立っているのは、
座長でアイルランドのHughes博士
Q:では、今回の国際家政学会で講演された原田先生の発表内容を教えて下さい。
回答:ちょっと難しくなってしまいますが、発表演題は「Supply of high quality frozen fish meat by quick
freezing method using alcohol brine」というものでした。この研究は、農林水産省から国のプロジェクトとして水産大学校食品科学科が平成18年度から認められて研究を続けて来た成果の報告だったのです。平たく言えば、アルコールを使った急速凍結法を用いれば、モンゴルみたいな海から遠く離れた内陸の奥地でも、日本の食文化の一つである「刺身」を、日本にいる時と同様、美味しく食べることができるという画期的な話だったのです。
Q:水産大学校の発表はそれだけだったのですか?
回答:いえいえ、当食品科学科との共同発表として、前述の長尾先生のお弟子さんで管理栄養士の東京家政大学・永塚規衣先生が、「Multi-analysis
of antioxidative activity of Asian traditional processed seafoods including
gelatin gel seafoods and fish sauces」という演題で、水産伝統食品が持つ健康増進機能についてポスター発表されましたし、これも、長尾先生のお弟子さんで管理栄養士の金沢学院短期大学・粟津原理恵先生が、「Cooking
methods of Japanese buckwheat food to take antioxidative rutin」という演題で、蕎麦が持つ健康増進機能成分ルチンの働きについてポスター発表されました。
東京家政大学の永塚先生のポスターの前で、皆さんと記念撮影
共同発表者の粟津原先生のポスター発表風景
Q:やれやれ、今、先生は、ほっと一息ですね。
回答:いやいや、さ来月には、横浜パシフィコで「第5回世界水産学会議」があり、水産大学校からも数多く発表演題が出るはずです。当研究室からも、院生の学生さんが英語で世界の学者に向かって講演発表するのですよ。「やれやれ」なんて言っている暇はありませんよ(笑)。
Q:スイスでは、何かエピソードはありますか?
回答:エピソードという程のことではないんですけど、学会中のイベントとして、2000メールを越える山の登山があったんですよ。事前情報では、相当寒いので厚手のセーターを持参と言われていたのですが、思った以上にスイスは暑かったです。私自身、山の頂上でも全て半袖で通したのですが、周りを見ると長袖の人ばかりなのですね。「先生は皮膚感覚がおかしいのでは?」と周りから言われてしまいました(笑)。ところが日本に帰って来て、スイス以上に酷暑だったのには、さすがに閉口しました(笑)。
今日は、水産大学校食品科学科の研究が世界的であると共に、管理栄養士の先生方の研究にも随分と貢献しているのだなあと勉強になりました。有難うございました。