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| 砂浜海岸の生態と保全 | ||||||
| 須 田 有 輔 | ||||||
目 次
1.1 砂浜海岸とは?
1.1.1 砂浜海岸の定義
海岸は,現在の物理・化学的な性状からみて大きく堆積物海岸,岩石(海食)海岸,生物海岸の3タイプに区分することができます(茂木1980)(図1).堆積物海岸とは河川から供給される陸上起源の土砂や海食崖から削り取られた砕屑物が堆積してできた海岸のことで,砂浜はこのタイプに含まれます.岩石海岸は岩盤が露出した海岸です.三番目の生物海岸は,マングローブやサンゴ礁など生物起源の物質で縁取られている海岸です.
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| 図1 3種類の海岸.左:堆積物海岸(砂浜),中:岩石海岸,右:生物海岸(マングローブ). | |||||
堆積物海岸を構成する土粒子の大きさ(粒径)はウェントワースの粒径区分によって,大きく礫,砂,泥の3つに区分され(表1),それぞれに該当する海岸が礫浜(れきはま),砂浜(すなはま,さひん),泥浜(どろはま)と呼ばれることもあります(鈴木1998)(図2).したがって,この区分に厳密に従うなら,砂浜とは粒径が0.0625〜2mm(-1〜4φファイ)の土粒子で構成される海岸であると定義されます.一方,砂を中心としてある程度礫や泥の範囲も含む海岸,あるいは,事実上堆積物海岸イコール砂浜海岸として扱われることもあります.
| 表1 ウェントワースの粒径区分 | |||
| 大区分 | 小区分 | φスケール | 粒径(mm) |
| 礫 | 巨礫 | -8 | 256 |
| 大礫 | -6〜-8 | 64〜256 | |
| 中礫 | -2〜-6 | 4〜64 | |
| 小礫 | -1〜-2 | 2〜4 | |
| 砂 | 極粗砂 | 0〜-1 | 1〜2 |
| 粗砂 | 1〜0 | 0.5〜1 | |
| 中砂 | 2〜1 | 0.25〜0.5 | |
| 細砂 | 3〜2 | 0.125〜0.25 | |
| 極細砂 | 4〜3 | 0.0625〜0.125 | |
| 泥 | シルト | 8〜4 | 0.0039〜0.0625 |
| 粘土 | 8 | 0.0039 | |
| φ=-log2d dは粒子直径(mm) | |||
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| 図2 粒径に基づく3種類の堆積物海岸.左から泥浜,砂浜,礫浜. | |||||
1.1.2 砂浜海岸が形成される場所
下の日本全図をみてください(図3).これは,堆積物海岸を粒子サイズに基づき泥浜と砂浜・礫浜の大きく2つに分けて,その分布を表したものです.青い帯が大規模な砂浜・礫浜が見られる地域,オレンジ色が大規模な泥浜が見られる地域を示しています.図のように,大規模な砂浜や礫浜は外海に面した場所,例えば,茨城県の鹿島灘に面した海岸(利根川河口から大洗あたりまで),静岡県と愛知県の遠州灘に面した海岸(御前崎から渥美半島にかけて)などに,それに対して大規模な泥浜は東京湾,伊勢・三河湾,瀬戸内海,有明海など,閉鎖的・半閉鎖的な内湾域に分布しています.このように,形成される場所を見ると,同じ堆積物海岸であっても,一般的に,粒子の細かい泥浜は静穏な内湾域に,粒子の粗い砂浜や礫浜は波浪の厳しい外海に面した場所に形成されるという違いがあります.このことは,その場所の生物過程が,前者では化学的な作用,後者は波浪に起因する物理的な作用を強く受けているということを意味しています.
砂浜の生態を扱ったこれまでの研究の多くは,内湾域に形成される比較的堆積物が細かい砂浜が対象とされ,外海に面した砂浜での研究例は桁違いに少ないのが現状です.実際に,外海に面した砂浜の生態を総合的に扱った図書もBrown & McLachlan (1990)による"Ecology of Sandy Shores"(訳書は須田・早川2002)とシンポジウム論文集(McLachlan & Hesp 1983)しかみられません.本稿ではこれ以降,外海に面した波浪の厳しい砂浜に焦点をあてていこうと思います.

| 図3 日本における大規模な堆積物海岸の分布. | |||
1.2 砂浜海岸のモルフォダイナミクス
砂浜海岸のモルフォダイナミクス(morphodynamics)とは,流体(波,潮汐,流れ)と地形との間の力学的な相互作用のことで(Short 1999a),外海に面し波浪の厳しい砂浜海岸では最も重要な環境要因となります.このような相互作用の過程や結果は,波浪,流れ,地形,堆積物の分布などに現れます.
1.2.1 砂浜海岸の断面区分
砂浜海岸の断面を地形に基づいて見ると図4(上)のように区分することができます.岸からある程度の沖には沿岸州という起伏が見られます.沿岸州の陸側は谷状になっておりトラフと呼ばれます.そこから岸に向かって徐々に浅くなっていきますが,汀線の少し手前にステップと呼ばれる段差があります.一般的には,沖から来た波は沿岸州の上で砕波しますが,海岸のタイプによってはステップの上で砕波が起こります.汀線から陸側が浜になりますが,汀線から浜崖(図5左)という段差までの部分を前浜と呼びます.そこから,砂丘の基部までが後浜となります.後浜の平坦な部分を汀段(図5中央)と呼びます.
一方,図4(下)のように,波浪に基づいて区分することもできます(Short 1999a).沿岸州が形成されるタイプの海岸では通常沿岸州の上方で砕波が生じますが(砕波帯),そこから汀線までの範囲がサーフゾーンと呼ばれている領域です.サーフゾーンから沖側で,堆積物が波浪の影響を受けなくなる水深(移動限界水深)辺りまでを近岸帯と呼びます.一方,サーフゾーンから陸側で,砂丘の基部辺りまでは半陸性の環境となります.サーフゾーンと半陸生環境の境界が汀線になりますが,毎回の打ち上げ波は汀線付近を上げたり下げたりと移動し,冠水と大気への露出を繰り返しています.汀線をはさみ冠水と露出を繰り返す部分を遡上波帯(図5右)と呼びます.砂丘基部から移動限界水深辺りまでが狭義の砂浜になりますが,Brwon & McLachlan (1990)はそれに砂丘部分も含めて活動的沿岸帯(Active littoral zone)と呼び,砂浜海岸の保全にあたっては少なくともこの範囲全体を考慮すべきだとしています.
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| 図4 砂浜海岸の断面の模式図.上:地形に基づく区分,下:波浪に基づく区分.下図はShort (1999a)を元に作成. | ||||
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| 図5 浜崖(左),汀段(中)および遡上波帯(右). | |||||
1.2.2 砂浜タイプ
砂浜海岸は一般的にモルフォダイナミクスの状態によって,逸散型,中間型,そして反射型の大きく3タイプに分類されます(図6).逸散型砂浜(dissipative beach)は,潮間帯勾配が緩い,砂は細かい,明瞭な沿岸州が存在しない,砕波が繰り返し生じる,などの特徴をもちます.このタイプの砂浜は近岸帯の幅が広く,その中で何度も砕波することにより,波エネルギーは徐々に逸散していきます.中間型砂浜(intermediate beach)は,潮間帯勾配は中庸,砂の大きさは中程度,明瞭な沿岸州が存在し沿岸州上で砕波する,などが特徴です.波エネルギーは沿岸州上での砕波によって一気に消散するので,サーフゾーン内は比較的静穏な状態となります.沿岸州形状は,直線上のもの,波状のもの,一部が汀線部と付着したようなものまで様々です.直線上の沿岸州が形成される砂浜では,一列に並んだ明瞭な砕波を見ることができます.反射型砂浜(reflective beach)は,潮間帯勾配が急である,砂は粗い,沿岸州が存在しない,砕波が生じるときはステップ上において,という特徴があります.このタイプの砂浜は,ごく岸に近づくまで水深の変化がわずかであるため,沖から来た波もそこまでは砕波しません.しかし,汀線部の直前にステップという大きな段差があり,そこで水深が突然浅くなるので,場合によっては,ステップ部分で大きな砕波が生じることがあります.
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| 図6 3タイプの砂浜海岸. | |||
これら3タイプの砂浜は定性的には図6で示したように区分されますが,実際には砕波波高(Hb),砂粒子の沈降速度(Ws)および波の周期(T)という3つの変数を使って表した無次元沈降速度Ω(Ω=Hb/WsT)というパラメータを使って区別されます(Short & Wright 1983, 1984,Short 1999).それぞれのタイプの境界値は概ね1(反射型-中間型)と6(中間型-逸散型)です.ここでは3タイプに大別されていますが,実際には,中間型砂浜が4タイプに細分されており,合計6タイプに分けられています.なお,この6タイプを8タイプに改変した研究もあります(Lippmann & Holman 1990).
上記の区分には潮位差が考慮されていませんが,Masselink & Short(1993)とMasselink & Turner(1999)は潮位差も考慮した次のようなモデルを提唱しました(図7).これは,無次元沈降速度Ωと潮位差(相対潮位差RTR)との関係を図7のように表したものです.潮位差としては平均大潮時潮位差(MSR)を砕波波高で割った相対潮位差(RTR)が用いられています(RTR=MSR/Hb).同じ大潮時潮位差であるなら波高が低いほど相対潮位差は大きくなり,RTRが15を越えるようになると,Ω値にかかわらず(砂浜タイプにかかわらず),干潟状態になります.例えば,大潮時潮位差が数メートルに達する有明海では,仮に平均砕波波高が0.5mあったとしてもRTRが15程度にはなります.余談になりますが,『干潟=泥浜』という見方が広く見られますが,下の図をみれば,干潟は堆積物のサイズとは無関係であることがわかると思います.
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| 図7 砂浜のモルフォダイナミクスと潮位差の関係. | |||
これまで実際に調査を行った海岸を例にとり,上で示した砂浜タイプのいくつかを写真で見ることにしましょう(図8).最上段の2枚は茨城県の鹿島灘に面した波崎海岸で,図7の中間型のうち沿岸州型とされるタイプに相当します.この海岸の大潮時最大潮位差は1.5m以下で,明瞭な1列の沿岸州が形成されます.波浪は厳しく,近岸帯の有義波高が2mを越えることもあります(Gomyoh et al. 1994).沿岸州上で砕波した後も何度か砕波が繰り返されるため,一見,サーフゾーン内で砕波が繰り返される逸散型砂浜にも見えます.中央の2枚は同じく中間型の鹿児島県吹上浜(左)と福岡県新松原海岸(右)です.吹上浜は大潮時最大潮位差が3mを越え,図7の中間型のうち,中央と下のイラストに近いタイプです.沿岸州上で1列に砕波している様子がわかります.一方,新松原海岸は潮位差が1.5m程度しかありませんが,波浪がそれほど強くなく,タイプとしては吹上浜と同じになります.しかし,沿岸州の形状が吹上浜とは異なり直線状でないため,砕波列は不規則です.一番下の2枚は反射型砂浜のオホーツク海の紋別海岸(左)と鹿児島県頴娃(えい)海岸です(背景の山は開聞岳)(右).両方とも典型的な反射型砂浜で,入射した波が汀線部(ステップの上)で砕波している様子がわかります.
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| 図8 中間型砂浜(波崎海岸)(上段),中間型砂浜(左:吹上浜,右:新松原海岸)(中段)と反射型砂浜(左:紋別海岸,右:頴娃海岸)(下段). | ||||
反射型タイプの海岸は静穏時と暴浪時の状態が著しく異なり,静穏時には図9の左側の写真のように池のように静かです.しかし,現場では風がなくても,沖からうねりが入るようになると,右側の写真のようにステップ上で大きく砕波します.これは,逸散型砂浜や中間型砂浜のように,岸に到達する前に砕波して波エネルギーが消散することがないためです.図10は同じ紋別海岸の実測した断面図ですが,最大の潮位差が1m程度しかないため,海岸の形状は潮位が変わってもほとんど変化しません.汀線のすぐ先にステップが見られますが,拡大断面図(右)をみると,ステップの段差が2m近くにもなることがわかります.同海岸は,汀線から150〜200m程度(海岸段丘基部からは200〜250m)を境に,それより岸側の海底は平坦となり,そのため砕波が起こりにくいのです.しかし,ステップ部で急に水深が浅くなるため,場合によってはそこで大きく砕波します.このタイプの海岸は,静穏時には池のように見えるので,それに惑わされてうっかり海に入るとステップで急に深みにはまり,思わぬ事故を引き起こすことにもなりかねません.水遊びや調査にはとりわけ注意が必要です.
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| 図9 反射型砂浜の同一場所における静穏時(左)と暴浪時(右)(オホーツク海紋別海岸). | ||||||||
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| 図10 反射型砂浜(オホーツク海紋別)の海岸断面図. | ||||||||
1.2.3 同一海岸内に見られるモルフォダイナミクスの状態の変化
以上のように,潮位差の大きな海岸では潮位の変化によって海岸の状態が大きく変わることが明らかです.このことを,私たちが実際に調査を行っている鹿児島県吹上浜を例にとり見ていきたいと思います.先にも述べたように,吹上浜は大潮時最大潮位差が3mを越え,海岸全体としては中間型に該当しますが,潮位の変化に伴ってモルフォダイナミクスの状態も変化していきます.下の図(図11)は同海岸の実測断面図ですが,この図を元に,写真も交えながら,高潮(満潮)から低潮(干潮)にかけての状態の変化を説明しましょう.
吹上浜は中間型砂浜でありながら,高潮時には反射的な状態となり,海岸勾配は急です(図12A).その時は沿岸州部の水深も深いため,明瞭な砕波は起こりません.潮位が1/3程度低下すると,必ずしも出現するわけではありませんが,スワッシュバー(swash bar)と呼ばれる沿岸州状の小さな起伏が現れます(図12B,C).その内側には人の踝程度の深さの水域が現れ,残った海水が細い水路を通して海に向かって流れていきます(図12D).さらに潮が引くと,海岸の勾配は非常に緩やかになり,干潟のような状態になります(図12E).吹上浜では南に行くに従い干潟状になる面積が広がってきます(図12F).やがて,最低潮時に達すると,沿岸州と岸との間にラネル(runnel)と呼ばれる水域が現れます(図12G,H).ラネルの最大水深は30cmから1mを少し越える程度です.沿岸州は場合によっては完全に大気中に露出することもあり,そのようなときは一部で外海とつながることを除いて,ラネルは外海からは隔離された環境となります.
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| 図11 中間型砂浜(鹿児島県吹上浜)の海岸断面図. | ||||
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| 図12 中間型砂浜(吹上浜)における潮位の変化に伴うモルフォダイナミクスの状態の変化. | |||
このように,吹上浜のような潮位差の大きな砂浜では,同一の海岸であっても潮の干満によって海岸の様相が大きく変化するので,そのことがそこに生息する生物の環境条件にも大きく影響するのではないかと考えられます.したがって,モルフォダイナミクスの状態の変化を考慮した研究が必要になってきます.
1.2.4 汀線部にみられる波状の地形
反射型砂浜では,上から見て汀線部が波状の地形をなしていることがあります.このような波状の地形をカスプ(cusp)と呼びます(図13).カスプは波長1m程度の小さなものから数100mにもなるような大規模なものまでいろいろです.生態学的には,カスプは独特な生息場を形成していると考えられています.McLachlan & Hesp(1984)は,オーストラリアのカスプを湾入部,岬部および離岸流発生部に分けて,メイオファウナ,マクロファウナ,動物プランクトンそして魚類の分布を調べました.その結果,メイオファウナは湾入部における離岸流の発生箇所の両脇に,マクロファウナは湾入部に,動物プランクトンは離岸流が発生しないカスプの岬部沖に,魚類稚仔は離岸流が砕波帯を越えた辺りにできる離岸流頭部に多く出現することが明らかとなりました.日本の鹿島灘波崎海岸では,アミ類はカスプの岬部より湾入部に多く出現する傾向が観察されています(Gomyoh et al. 1994).宮城県名取市の砂浜でもアミ類や等脚類に同様の傾向が認められています(東北大学農学部水産学科資源生態学講座ホームページ).
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| 図13 カスプ地形(山口県油谷半島二位ノ浜). | |||
1.2.5 離岸流
離岸流(rip current)は,砂浜海岸にみられる岸から沖に向かう流れのことです(図14).沖浜から岸に向かう流れに乗って運ばれた海水は,岸に達すると図のように岸と並行に進む並岸流となり,ある部分で再び沖に向かって流れていきます.離岸流は砕波帯を越えたあたりで消散しますが,再び岸に向かう流れに乗ります.このように,砂浜海岸では循環セル(circulation cell)と呼ばれる流れの循環が見られ,一つ一つが小さな生息環境単位になっていると考えられています(Brown & McLachlan 1990).
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| 図14 砂浜海岸の循環セル. | |||
1.3 砂浜海岸の帯状分布
海岸部での帯状分布といえば,岩礁域や人工護岸などだけに見られるものと思われがちですが,砂浜にも帯状分布が見られます.ただし,岩とはちがって付着生物が見られない砂浜では,目で見える生物を頼りに帯状分布を把握することは困難です.砂浜では大きく図15のような3つの帯域を分けることができ(Brown & McLachlan 1990),それぞれの境界は,湧出帯(resurgence zone)とドリフトライン(drift line)となっています.
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| 図15 砂浜海岸の帯状分布.Brown & McLachlan(1990)を元に作成. | |||
湧出帯は地下水面の端部から海に向かって地下水が流れ出ている場所のことです.とくに,潮位差の大きな中間型砂浜では顕著で,砂の間から地下水が流れ出る様子がはっきりとわかります(図16).湧出帯より海側の砂は常時水分に浸かった状態になっています.この帯域のことを飽和帯または潮下帯上縁と呼びます.湧出帯の位置は潮の干満に伴い浜を前後します.
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| 図16 湧出帯. | ||||
砂浜に行くと,打ち上げられた海藻やゴミなどが汀線に沿って線状になって見えることがよくありますが,それがドリフトラインです.ドリフトラインは,観察した時点の直前において波が最も陸側まで達した地点を示しており,広く解釈すれば,ドリフトラインまでが海の環境であるともいえます.下の写真では赤線と緑線で示した2列のドリフトラインが見られますが,海に近いドリフトラインが直前に形成されたもので,陸側の緑色で示したものは,それより以前にできたものです(図17).打ち上げられてドリフトラインに堆積した海藻や動物の遺骸は浜に生息する端脚類をはじめとする小型甲殻類や砂丘に棲む昆虫類にとっての餌料源にもなります.したがって,海岸清掃などによってそれらの打ち上げ物を取り除くと,海岸への栄養供給の一つの経路が絶たれることにもつながるので,清掃にあたっては配慮が必要です.ドリフトラインと湧出帯の間の砂は,潮が引いた後でも湿気が残り,保水帯または中潮帯と呼ばれています.ドリフトラインより上の部分の砂は海水の影響を受けず常時乾燥しています(ただし海塩飛沫は常時飛来する).この部分を乾燥帯または陸域下縁と呼びます.
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| 図17 ドリフトライン. | |||
1.4 砂浜海岸の表し方
上で紹介した砂浜タイプの他に,砂浜海岸の表し方にはいくつかの方法がありますので,簡単に紹介します.
1)地形的な広がり方に基づく方法
海岸の前面に島や岬など遮る物がなく,沖から入射した波が直接岸に打ち寄せるような海岸の状態を開放的(open)と表します.外海に面した長大な砂浜が該当します.それに対して,規模はそれほど大きくなく,浜の前面に島があったり,浜の端が岬や岩礁などで遮られているような状態を保護的(protected),さらに,岬や砂州などで囲まれているような状態を包囲的(enclosed)と呼びます(時岡他 1972).
2)波当たりの強さに基づく方法
波高,粒径,還元層の深さ,巣穴を形成する動物の有無などの指標によって,波への露出の程度を表したもので,強い方から順に,非常に露出的(very exposed),露出的(exposed),遮蔽的(sheltered),非常に遮蔽的(very sheltered)となります(Brown & McLachlan 1990).
これらの用語を用いれば,開放的な砂浜(open sandy shore),露出的な砂浜(exposed sandy shore)などと表現することができます.
2.1 世界における砂浜の魚類採集調査
最も多様な種類があるのが曳き網型で,規模も,実際の漁業で使われている規模のものから,わずか4mまでのものと様々です.曳き網型で大型なもののうち,私たちの研究室が使っている50×3m,25×4m,および25×2mの3種類を除けば,ほとんどが舟艇を使ってサーフゾーンより沖側(沖浜)での調査を前提に設計されたものであり,私たちの研究が近岸帯内に限定しているのと対照的です.沖浜で用いる曳き網は海底を掻くことが前提にされていないので,それらの研究では,カレイ目魚類などの底生魚類はほとんど採集されていません.
一方,曳き網でも小型のものは仔魚や小型の稚魚の採集を目的としたもので,日本人研究者の独壇場の感があります.プッシュネット型と併せて,砂浜の仔魚・稚魚研究では,千田哲資博士(元長崎大学教授)および木下 泉博士(高知大学教授)をはじめとする研究グループにより多くの研究が行われ,砂浜のサーフゾーンが仔稚魚の保育場となっている証拠が多く集められてきました(例えば,木下1993,Amarulla & Senta 1989, Subiyanto et al. 1993, Senta & Kinoshita 1985,千田・木下1998).
ビームトロール型,けた網型およびそりネット型は,トロール網式の網の網口にフレームを設けたものです.舟艇による曳網が前提となるため,近岸帯で曳網されることは稀です.とくに,そりネット型はカレイ類稚魚やアミ類の採集によく使われ,日本の水産資源研究では実績があるものです.プッシュネットは,東南アジアの砂浜でサバヒーなどの稚魚を漁獲するために使われているサギャップという漁具を模したもので,仔魚や小型の稚魚の採集を目的としています.
| 表2 開放的な砂浜における魚類生態研究で使われてきた採集器具 | |||
|
タイプ
|
幅×深さ (m)
|
目合 (mm)
|
調査場所
|
出 典
|
|
曳き網型
|
390×3.8
|
46s
|
アメリカ | Schaefer 1967 |
|
210
|
9.5s
|
オーストラリア | Lenanton 1982 | |
|
130×2.4
|
10b
|
アメリカ | McFarland 1963 | |
|
90×2.5
|
50s
|
南アフリカ | Romer 1990 | |
|
60×1.5
|
23s
|
南アフリカ | Romer 1990 | |
|
60×2
|
40s
|
南アフリカ | Lasiak 1984a,b, Romer 1990 | |
|
50×3
|
38s, 19b
|
日本 | 須田研究中 | |
|
50×1.8
|
3.2b
|
アメリカ | McMichael & Ross 1987, Ross et al. 1987 | |
|
41.5
|
9.5
|
オーストラリア | Ayvazian & Hyndes 1995 | |
|
41
|
9.5s
|
オーストラリア | Lenanton 1982, Lenanton & Caputi 1989 | |
|
36×1.8
|
8s
|
イギリス | Ellis & Gibson 1995, Gibson & Robb 1996, Gibson et al. 1993, 1996 | |
|
30×2
|
12s
|
南アフリカ | Clark 1997, Clark et al. 1994, 1996, Lasiak 1983, 1984a,b, 1985, Lasiak & McLachlan 1987, Romer 1990 | |
|
26×4
|
8b
|
日本 | Suda et al. 2003, 2004b, 2005 | |
|
26×2
|
4b
|
日本 | Suda et al. 2002, 2004a, 中根他2005, Inoue et al. 2005 | |
|
21.5
|
6s
|
オーストラリア | Ayvazian & Hyndes 1995 | |
|
20
|
8s
|
アゾレス諸島 | Santos & Nash 1995 | |
|
18×2
|
3.2s
|
アメリカ | Ross & Lancaster 2002 | |
|
15.2× 1.8
|
6b
|
アメリカ | Wilber et al. 2003a,b | |
|
15×1.6
|
10
|
オーストラリア | Robertson & Lenanton 1984 | |
|
15×1.2
|
6s
|
アメリカ | Gunter 1958 | |
|
15×1
|
10s
|
オーストラリア | McLachlan & Hesp 1984 | |
|
10×2.5
|
7
|
ブラジル | Pessanha & Araujo 2003 | |
|
10×1.5
|
8s
|
アメリカ | Harvey 1988 | |
|
10×1.5
|
20
|
ブラジル | Zahorcsak et al. 2000 | |
|
9.1×1.8
|
3.2b
|
アメリカ | McMichael & Ross 1987, Modde 1980, Modde & Ross 1981, 1983 | |
|
9×1.2
|
不明
|
アメリカ | Warfel & Merriman 1944 | |
|
8×1.5
|
4.8b
|
アメリカ | Layman 2000 | |
|
5×1.3
|
1b
|
日本 | Senta & Hirai 1981, Senta & Kinoshita 1985, Senta et al. 1980 | |
|
5×1
|
1b
|
日本 | 須田・五明1995, Suda et al. 2002 | |
|
4.5× 1.5
|
0.5b
|
南アフリカ | Watt-Pringle & Strydom 2003 | |
|
4×1
|
1b
|
日本 | 荒山他2002, 東2005, 東他2002, Azuma et al. 2003, Kinoshita 1986, Kinoshita & Fujita 1988, 木下1993 | |
|
ビームトロール型
|
3
|
10b
|
ベルギー | Beyst et al. 1999 |
|
3
|
3b
|
イギリス | Ellis & Gibson 1995, Gibson & Robb 1996, Gibson et al. 1996 | |
|
2
|
3b
|
イギリス | Ansell et al. 1999, Gibson & Robb 1996, Gibson et al. 1996 | |
|
けた網型
|
2×0.5
|
0.6b
|
アメリカ | Ruple 1984 |
|
2×0.5
|
0.5b
|
南アフリカ | Cowley et al. 2001 | |
|
そりネット型
|
2×0.35
|
2b
|
日本 | 静岡県1990 |
|
0.6× 0.4
|
0.35, 0.76b
|
日本 | 広田1990 | |
|
プッシュネット型
|
3
|
フィリッピン | Morioka et al. 1993 | |
|
1.8
|
1b
|
日本 | Senta & Hirai 1981 | |
|
1.5× 0.3
|
2b
|
日本 | Amarullah & Senta 1989, Subiyant et al. 1993 | |
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1.5
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1b
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日本 | 乃一他1993, 小路・田中2002 | |
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1.5× 0.6
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0.5b
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南アフリカ | Harris & Cyrus 1996, Harris et al. 2001, Whitfield 1989 | |
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刺し網
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アメリカ | McMichael & Ross 1987 | ||
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延縄
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日本 | Suda et al. 2004 |
| 目合のbは脚長,sはストレッチ長を表す | |||
2.2 私たちの研究室による魚類採集調査
砂浜の近岸帯に限ってみると,仔魚および小型の稚魚(サイズ的には最大でも数センチ程度)に関しては,日本の研究者を中心として数々の研究が行われてきましたが,それ以降の発育段階(若魚,未成魚,成魚)にある魚類の生態については,世界的にもほとんど不明であることがわかりました.上でも述べたように,大型魚を対象にした研究のほとんどは近岸帯よりも沖側で行われており,まさしく海と陸の境界領域といえる近岸帯を対象にしたものは極めて数が限られていたのです.そこで,私たちの研究室では近岸帯での大型魚(稚魚期以降の発育段階)を対象にした研究を,1994年より,まずは山口県の土井ヶ浜を手始めに行ってきました.結果については第3章で述べますが,ここでは調査に使った曳き網(YS Surf Net)について紹介したいと思います.
網の設計にあたっては次のようなことを条件としました:1)近岸帯のすべての生活型(底生魚類,浮魚類)の魚類が採集できること;2)5名程度の人力での曳網ができること;3)他の調査機材と共に車(ワゴン車)内に収まること.最初の条件は,浅い上に波浪の厳しい近岸帯では,生活型ごとに採集器具を用意しても十分な効果は期待できません.さらに,三番目の条件とも重複しますが,運搬上の面からも1種類の採集器具に絞る必要があったのです.近岸帯は水深が浅いので,網丈さえ水深をカバーすることができれば,1種類の網で底生魚類から浮魚まで採集できるはずです.そのかわり,網底からの魚類の逃避を防ぐため,十分な重さのチェーンあるいは沈子コードを装着することにしました.二番目の条件は,予算はないが人手はあるという大学研究室の特性と関連しています.私の研究室では常時数名の学生が所属するので,彼ら彼女らのみなぎる力をあてにしてのことなのです.
YS Surf Net:25m中間型砂浜タイプ
砂浜タイプのうち海岸勾配が緩やかな中間型砂浜での使用を目的としています.フットロープとして沈子コード(鉛が入ったロープ)を使っています.中間型砂浜の砂粒径は小さいので,網目の大きさは4×4mmと小さくしてあります(図18).研究目的に応じてどのように網を曳くこともできますが,現在私たちは図22のような方法を採用しています.まず,岸から沖に向かって所定の曳網開始地点まで進みます.開始地点に達したら汀線と平行に網を展開し,ただちに曳網を開始します.網の端が汀線付近に達するまでは,外側に向かって曳くことがコツです.最後は,曳網を続けながら両袖を中央に寄せ,袋網の部分を回収します.一般的に,このタイプの網は底生魚類の採集には不向きだと見なされていますが,実際には図20Aに示すように,クロウシノシタ,ヒラメなどの底生魚類を安定して採集することができます.さらに,図20Bのコバンアジのような遊泳力の強い魚類を採集することもでき,この地曳網一つで底生魚類から浮魚類までカバーできることがわかります.曳網には最低4名の人員が必要です.同型の地曳網を使っての調査は,山口県下関市の土井ヶ浜(Suda et al. 2002, 2004a),鹿児島県日置郡金峰町の吹上浜(中根他2005),福岡県遠賀郡岡垣町の新松原海岸(Inoue et al. 2005)で行ってきました.
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| 図18 YS Surf Net 25m中間型砂浜用地曳網.左:全景,右:袋網部. | |||||
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| 図19 曳網方法. | ||||
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| 図20 吹上浜で採集されたシロギス(A),コバンアジ(B),クロウシノシタ(C). | |||||
YS Surf Net: 25m反射型砂浜タイプ
砂浜タイプのうち海岸勾配が急な反射型砂浜での使用を目的としています(図21).近岸帯の深さは中間型に比べると深いので,網丈を4mとしました.このタイプの砂浜では調査員が海中に入って作業ができないため,網の展開にはボートを使用します(図22).この網でも前の中間型砂浜タイプ同様,浮魚から底魚まで採集することができます(図23).この型の網を使っての調査は,北海道オホーツク海側の紋別海岸で行っています(Suda et al. 2003, 2004b, 2005).
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| 図21 YS Surf Net 25m反射型砂浜用地曳網. | ||||
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| 図22 曳網方法. | ||||
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| 図23 オホーツク海の紋別海岸で採集された浮魚類(A)と底魚類(B). | |||||
YS Surf Net: 50m中間型砂浜タイプ
中間型砂浜である鹿児島県の吹上浜の調査ではこれまで上記の25m型を使ってきたのですが,曳網場所の水中観察を行ってみると,同網では採集することのできなかった大型のコチが観察されました.これまで採集できなかったのは採集器具に問題があったのではないかと考えました.つまり,コチの大型個体は瞬発的な遊泳力が強いため,網が近づくと真っ先に逃避する;25m型網は大型のコチの遊泳能力に比べると規模が小さい;網目が小さいため曳網速度が遅くなりそのことがコチの逃避を容易にする,などです.コチ以外にも,イシモチ類,大型のスズキなど,砂浜の近岸帯に出現してもおかしくない魚類がこれまでの25m型網では採集できませんでした.そこで,これらの大型魚類だけを対象にした50m型YS Surf Netを製作し(図24),2005年の吹上浜での調査から使用を開始しました.曳網回数がわずかなので,まだ何とも言えませんが,それでも70cmを超える大型のスズキが採集され(図25),この網の効果がある程度証明されました.本格的な活躍はこれからになるでしょう.
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| 図24 YS Surf Net 50m中間型砂浜用地曳網. | |||||
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| 図25 吹上浜で採集されたスズキ. | |||
3.1 砂浜海岸の魚類相
世界中のいろいろな地域で砂浜海岸の魚類生態について研究が行われていますが,ここでは私たちの研究室が行ったきた研究結果を元に,日本の砂浜海岸にはどのような魚類が出現するのかを紹介します(中根他2005,須田2004,Suda et al. 2002, 2003, 2004a,b, 2005).下の表は,山口県土井ヶ浜,鹿児島県吹上浜,それに北海道オホーツク海の紋別海岸で採集された魚類の一覧です(表3).砂浜タイプでみれば,土井ヶ浜と吹上浜は中間型,紋別海岸は反射型になります.調査に使用した採集器具は,先に紹介したYS Surf Netです.
結果を要約しますと,土井ヶ浜では45科66種以上,吹上浜では42科67種以上,紋別海岸では20科39種以上が採集されました.この数字だけからは中間型砂浜の方が多く魚類が生息するようにみえますが,調査回数(曳網回数)が中間型砂浜では数百回に及ぶのに対し,反射型砂浜では75回ですので,単純には比較できません.しかし,中間型砂浜の土井ヶ浜と吹上浜では,主要魚種についてはこれ以上ほとんど増えないと考えられますので,ほぼ70種程度が日本の温暖域にある中間型砂浜に出現する魚類種数であるといえるでしょう.反射型砂浜については,まだまだ調査を継続する必要があります.
種数が多かった科は,土井ヶ浜ではニシン科(4種),ハゼ科(5種),フグ科(4種),吹上浜ではニシン科(5種),アジ科(7種),ハゼ科(4種),紋別海岸ではカジカ科(6種),カレイ科(6種)でした.一方,個体数が多かったのは,土井ヶ浜ではキビナゴ,シロギス,クサフグ,ボラ,ヒラメの順,吹上浜ではカタクチイワシ,シロギス,トウゴロウイワシ,ボラ,クサフグ,スズキ属の順,紋別海岸ではチカ,キュウリウオ,マルタ,カタクチイワシ,ニシンの順となっていました.海岸ごとの特徴を見ると,土井ヶ浜には明らかな岩礁性の魚類も多く出現していますが,これは,同海岸が岩石海岸が連なる地域の中に見られる比較的小規模な砂浜であり,隣接する岩礁域の影響を強く受けていることを意味しています.一方,吹上浜は砂浜の規模が大きく,少なくとも調査地点から数km以内には岩礁がなく,そのため岩礁性と考えられる魚類はごくわずかしか出現していません.紋別海岸は冷水域の魚類相をよく反映しており,明らかに土井ヶ浜や吹上浜とは異なります.
| 表3 日本の砂浜の近岸帯に出現した魚類 | |||
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山口県土井ヶ浜
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鹿児島県吹上浜
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北海道オホーツク海
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中間型
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中間型
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反射型
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| 調査期間/曳網回数 |
1994-2000/500+
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2000-2004/270+
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2002-2004/75
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| 種 数 |
66+
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67+
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39+
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| ウチワザメ科 | ウチワザメ | ウチワザメ | |
| アカエイ科 | アカエイ | ||
| ソトイワシ科 | ソトイワシ | ||
| ホラアナゴ科 | メクラアナゴ | ||
| ウミヘビ科 | ホタテウミヘビ | ホタテウミヘビ | |
| ギンアナゴ科 | ギンアナゴ | ||
| ニシン科 | ウルメイワシ | キビナゴ | ニシン |
| キビナゴ | マイワシ | ||
| マイワシ | オグロイワシ | ||
| コノシロ | ヤマトミズン | ||
| コノシロ | |||
| カタクチイワシ科 | カタクチイワシ | カタクチイワシ | カタクチイワシ |
| ミズスルル | |||
| コイ科 | マルタ | ||
| ゴンズイ科 | ゴンズイ | ゴンズイ | |
| キュウリウオ科 | カラフトシシャモ | ||
| キュウリウオ | |||
| チカ | |||
| アユ科 | アユ | アユ | |
| サケ科 | サケ | ||
| エソ科 | オキエソ | ||
| タラ科 | コマイ | ||
| スケトウダラ | |||
| サイウオ科 | サイウオ属 | ||
| トゲウオ科 | イトヨ降海型 | ||
| ヨウジウオ科 | ヨウジウオ | ヨウジウオ | |
| ボラ科 | フウライボラ | ボラ | メナダ |
| ボラ | |||
| メナダ | |||
| トウゴロウイワシ科 | ギンイソイワシ | ギンイソイワシ | |
| トウゴロウイワシ | トウゴロウイワシ | ||
| サヨリ科 | サヨリ | サヨリ | サヨリ |
| ダツ科 | ハマダツ | ||
| ダツ | |||
| サンマ科 | サンマ | ||
| フサカサゴ科 | ハチ | クロソイ | |
| メバル | |||
| ホウボウ科 | ホウボウ | ホウボウ | |
| コチ科 | メゴチ | コチ科 | |
| ハリゴチ科 | ハリゴチ | ||
| アイナメ科 | クジメ | ホッケ | |
| アイナメ | スジアイナメ | ||
| エゾアイナメ | |||
| カジカ科 | キヌカジカ | アイカジカ | |
| アヤアナハゼ | ツマグロカジカ | ||
| チカメカジカ | |||
| オクカジカ | |||
| シモフリカジカ | |||
| ギスカジカ | |||
| トクビレ科 | ヤギウオ | ||
| シチロウウオ | |||
| カムトサチウオ | |||
| クサウオ科 | エゾクサウオ | ||
| スズキ科 | ヒラスズキ | ヒラスズキ | |
| スズキ | スズキ | ||
| タイリクスズキ | |||
| イシナギ科 | オオクチイシナギ | ||
| ハタ科 | マハタ | ||
| テンジクダイ科 | ネンブツダイ | ||
| ムツ科 | ムツ | ||
| アジ科 | マアジ | マアジ | |
| カイワリ | イケカツオ | ||
| コバンアジ | |||
| マルコバン | |||
| クロボシヒラアジ | |||
| ギンガメアジ | |||
| ロウニンアジ | |||
| ヒイラギ科 | ヒイラギ | ||
| フエダイ科 | フエダイ科 | ||
| マツダイ科 | マツダイ | ||
| クロサギ科 | セッパリサギ | クロサギ | |
| クロサギ | |||
| イサキ科 | コショウダイ | ||
| タイ科 | ヘダイ | ヘダイ | |
| クロダイ | クロダイ | ||
| キチヌ | |||
| ニベ科 | ニベ | ||
| キス科 | シロギス | シロギス | |
| ヒメジ科 | ミナミヒメジ | ||
| ハタンポ科 | キンメモドキ | ミナミハタンポ | |
| スズメダイ科 | スズメダイ科 | ||
| シマイサキ科 | コトヒキ | ||
| シマイサキ | |||
| カゴカキダイ科 | カゴカキダイ | カゴカキダイ | |
| メジナ科 | メジナ | ||
| イボダイ科 | イボダイ | ||
| ツバメコノシロ科 | ツバメコノシロ | ||
| タウエガジ科 | ムロランギンポ | ||
| ハナジロガジ | |||
| ガジ | |||
| ニシキギンポ科 | ギンポ | ||
| ホカケトラギス科 | マツバラトラギス | ||
| イカナゴ科 | イカナゴ | イカナゴ | |
| コケギンポ科 | コケギンポ | ||
| イソギンポ科 | ニジギンポ | ニジギンポ | |
| ネズッポ科 | ネズミゴチ | バケヌメリ | |
| ハゼ科 | ミミズハゼ属 | ウキゴリ | |
| アゴハゼ | ビリンゴ | ||
| ドロメ | シラヌイハゼ | ||
| ウキゴリ | ヒメハゼ | ||
| チャガラ | |||
| アイゴ科 | アイゴ | ||
| カマス科 | アカカマス | ||
| ヤマトカマス | |||
| ヒラメ科 | ヒラメ | ヒラメ | ヒラメ |
| アラメガレイ | アラメガレイ | ||
| カレイ科 | イシガレイ | ヌマガレイ | |
| ソウハチ | |||
| イシガレイ | |||
| クロガレイ | |||
| クロガシラガレイ | |||
| スナガレイ | |||
| ササウシノシタ科 | ササウシノシタ | ササウシノシタ | |
| ウシノシタ科 | クロウシノシタ | クロウシノシタ | |
| オオシタビラメ | |||
| カワハギ科 | アミメハギ | アミメハギ | |
| フグ科 | ショウワイフグ | キタマクラ | トラフグ属 |
| マフグ | クサフグ | ||
| クサフグ | |||
| アミメフグ | |||
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出 典
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Suda et al. 2002, 2004a | 中根他2005,須田未発表データ | Suda et al. 2003, 2004b, 2005 |
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| 図26 砂浜海岸の近岸帯に出現した魚類の体長頻度分布. | |||
採集された魚類の体長(全長)分布を表したのが図26です.中間型砂浜の土井ヶ浜と吹上浜は全く同一の採集器具を使っていますが,紋別海岸では網目の大きさが4倍大きいものを使っているのでその点は考慮しなければなりませんが,いずれの海岸でも概ね手の平サイズの個体が多いということがわかります.土井ヶ浜と吹上浜では50mm以下に分布の峰が見られますが,このほとんどは,土井ヶ浜ではキビナゴの稚魚,吹上浜ではカタクチイワシの稚魚によって占められており,いずれもごく限られた曳網の機会のみで採集されたものです.海岸ごとに比べてみると,紋別海岸では50mm以下の個体がほとんど採集されず,100mm弱および150mm前後に山をもつ二峰性分布を示しています.同じ中間型砂浜でも,吹上浜の方が出現する魚類の体長範囲は広くなっています.先のキビナゴやカタクチイワシを除いて見れば,土井ヶ浜では70mm前後に,吹上浜では100mm程度に分布の峰が来るのではないでしょうか.
3.2 砂浜海岸への出現様式
3.2.1 砂浜海岸への滞在期間
さて,これらの魚類が等しく同じように出現するのかといえば,そうではありません.中にはたった1個体しか採集されていないものや,ごくわずかの曳網機会だけでしか獲れなかったものもいます.砂浜海岸の生息場としての価値を評価するためには,これらの魚類の砂浜への依存程度というものを知る必要があります.一般的には,多く採集された種(優占種)をその環境への依存程度が高い種であると判断することが多いようですが,それだけでは十分ではありませんし,誤った解釈をする可能性もあります.例えば,土井ヶ浜では最も多くの個体が採集されたのはニシン科のキビナゴですが(全採集個体数の70%以上),500回以上網を曳いたなかの連続したたった2回だけでしか獲れていません.このような場合,何かの理由でたまたま岸に近づいた群れが採集されたと考える方が自然だと思います.そこで,単に数量的な大小を見るだけではなく,その魚種の生活史の中で,砂浜がどのように利用されているのかを考慮する必要があるでしょう.そのための方法の一つとして,これらの魚類を,ほぼ周年に亘って出現するもの(居住種),特定の季節だけ出現するもの(季節的回遊種),稀に出現するもの(流れ者),と大別することがあります(Brown & McLachlan 1990).比較的多く採集されるものを対象にこの方法で分けてみると,居住種にはボラ科,トウゴロウイワシ,スズキ属,シロギス,ヒラメ,クロウシノシタ,クサフグなどが含まれます.季節的回遊種としては,マイワシ,カタクチイワシ,クロサギなどがあげられます.反射型砂浜の紋別海岸については,まだ,季節を通した調査が十分ではないため,今のところはっきりしたことはいえませんが,クロガシラガレイ,スナガレイ,カジカ類,シチロウウオなどは居住種,チカ,キュウリウオなどは季節的回遊種かもしれません.
3.2.2 砂浜海岸へ出現する発育段階
土井ヶ浜に出現する居住種のうちヒラスズキ,シロギス,ヒラメ,クロウシノシタ,クサフグについて,1年間の成長の様子をグラフに表してみました(図27).このグラフは数年間のデータを1年分にまとめたものです.このグラフをみれば,その魚種の砂浜海岸への加入時期とサイズ,砂浜生息場への滞在期間とサイズ,そしてその間の成長過程を知ることができます.大きさから判断すると,ヒラスズキやヒラメは未成魚期までは砂浜域に出現しますが,それ以降は成魚の生息場へ移動していくことが推測できます.一方,シロギス,クロウシノシタ,クサフグは成魚期に達した個体もある程度出現するようです.ただし,産卵はおそらく砂浜以外の場所で行われるのでしょう.例えば,クサフグはどんな砂浜にも出現する魚ですが,産卵は岩石海岸内に見られる小規模な礫浜だけで行われます(図28).
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| 図27 山口県土井ヶ浜の近岸帯に出現した魚類の月別体長頻度分布の変化.数年にわたるデータを月ごとにまとめてある. | |||||
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| 図28 礫浜で産卵するクサフグ(山口県光市室積海岸2005年7月4日,水産大学校卒業論文学生 手嶋秀一・波多野良介・湯木 隆 撮影). | ||||
各魚種について図27のようなグラフを描けば,砂浜に出現する時期(季節)や大きさ(発育段階)の範囲がわかります.このことを元にすれば,砂浜に出現する魚類は図29のようにパターン分けできます(Suda et al. 2002).
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| 図29 砂浜海岸の近岸帯に出現する魚類の出現時期や発育段階に基づく分類.Suda et al. (2002)を元に作成. | |||
3.3 砂浜海岸の利用形態
砂浜海岸は他の沿岸浅海域と同様に沿岸海洋生物の保育場(生育場)(nursery)だと言われています.保育場として機能するためには餌が豊富に存在することや捕食者からの隠れ家(シェルター)が存在することが重要です.
3.3.1 餌場としての利用
砂浜海岸が魚類の餌場として重要な働きをしていることは最近の研究により少しずつ示唆されるようになってきました.これらの研究は主に,消化管内容物分析および安定同位体分析という大きく2つのアプローチによって進められてきました.
最初の消化管内容物分析は,胃や腸管を解剖して食べている餌の種類や数量を直接調べる方法です.土井ヶ浜や吹上浜では甲殻類のうち潜砂性アミ類といわれる,波打ち際の砂の中に分布が限定されている小型甲殻類を多く摂餌していることが観察されています(須田未発表).成魚期には魚食となるスズキやヒラメも,全長150mm程度まではそれらのアミ類を主な餌としています.砂浜域の餌生物に関する研究のうち潜砂性アミ類に関するものは最も多く,潮汐に伴う移動,岸沖方向の分布などについて,かなり詳細な生態が知られています(例えば,Hanamura 1999,花村2001,広田1998,野々村2005,Takahashi & Kawaguchi 1995,1997,1998).変わったところでは,吹上浜に出現するトウゴロウイワシが昆虫のハエを食べていることも観察されています.そのハエはおそらく砂丘の植生の中から飛来したものだと考えられ,一時的な餌に過ぎないかもしれませんが,こんなところにも,砂浜海岸における海と陸のつながりを感じさせます.砂浜域の魚類が飛来してきた陸生生物を摂餌している例は福岡県の砂浜でも観察されています(Inoue et al. 2005).一方,安定同位体分析による方法は,食物網分析において最近脚光を浴びている手法ですが,砂浜海岸で適用された例は数えるほどしかありません(Hiwatari et al. 2005).
3.3.2 隠れ家としての利用
沿岸域のうち藻場,岩礁,サンゴ礁,マングローブなどが魚介類の稚仔にとって優れた隠れ家だと言われている理由は,そこには,海藻・海草,岩礁,サンゴ礁,マングローブの根など,身を隠すのに適した自然の構造物があるからです.でも,そのような自然の構造物が全くない砂浜海岸では何が隠れ家の要素となっているのでしょう? まだ科学的に証明されたわけではありませんが,いくつかの環境条件が考えられます(Gomyoh et al. 1994,須田2002)(図30).
一つは,砕波によって生じる海水の濁りや攪乱です.砂浜海岸の海水は干潟や河口域などに比べればはるかに透明度が高く,濁りとは無縁にも見えますが,砕波が生じるたびに海底の砂が巻き上げられ,瞬間的には高い濁りが観察されます.また,砕波によって生じる気泡も濁りの要因になるかもしれません.これらの濁りは視覚に頼る捕食者たちの視野を遮るかもしれません.砕波すると海水が攪乱されますが,攪乱の影響は小型魚類より大型魚類に強く現れるかもしれません.二つ目は,とくに沿岸州が形成される中間型砂浜では,低潮時に現れるラネル(沿岸州によって外海と隔てられている)が隠れ家となっている可能性があります.実際,アメリカの東海岸の砂浜ではラネルが隠れ家として機能しているという報告があります(Layman 2000).
このような環境条件が,砂浜が隠れ家として機能している根拠であるとみなすことは,逸散型砂浜や中間型砂浜では妥当性をもちますが,反射型砂浜では首をかしげざるを得ません.なぜならば,反射型砂浜にはそのような環境条件が備わっていないからです.そのため,逸散型砂浜や中間型砂浜がある程度沖から隔てられ,ひとつの独立した生態系であるとするのに対し(自給型砂浜),反射型砂浜は沖と直接つながり,単に陸と沖合の仲介役をしているに過ぎない(仲介型砂浜)という見方もあります(Brown & McLachlan 1990).
それにもかかわらず,反射型砂浜に多くの小型魚類が生息することはオホーツク海の紋別海岸で確認されていますが(Suda et al. 2003, 2004B, 2005),それには,同海岸の近岸帯に分布するアマモ場の存在が影響しているかもしれません.同海岸の水深3m〜12mあたりの場所にはアマモ科植物(種は未同定)が繁茂していることが調査の過程で偶然に観察されました(須田2004).静穏な内湾域の砂浜海岸を除き,外海に面した開放的な砂浜海岸にアマモ場が存在するとは考えていなかったので,発見したときは驚きました.水中カメラで見るとアマモ場にはカレイ類が多く生息する様子が観察され,反射型砂浜では藻場の存在が魚類の蝟集あるいは隠れ家としての役割に寄与しているのではないかと考えています.
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| 図30 サーフゾーンは小型魚類の隠れ家である. | |||
4.1 砂浜海岸の環境問題
一般的に,内湾域の海岸に比べて,外海に面した開放的な砂浜海岸には,生態系を脅かすような際だった環境問題がないと思われていますが,実際には次のような様々な問題が世界の各地ですでに進行しています(例えば,Brown & McLachlan 1990, 2002).
海岸侵食
今,日本の開放的な砂浜海岸で一番深刻な環境問題は海岸侵食による生息場の消失です.海岸侵食は,砂浜域に供給される砂と流出する砂の量のバランスがくずれることによって生じ(砂村1996),その大きな原因は,陸域から河川経由でもたらされる土砂の減少だといわれています.自然の状態では,河川に削り取られた土砂が海に流され,それが砂浜に供給されていたのですが,水資源や電力開発,洪水対策,流域の土地造成や都市化などさまざまな理由により河川流路が人工化され,河川経由の供給土砂量が激減しています.それに拍車をかけているのが海岸部の開発です.これらはいずれも日本の経済発展や社会構造の変化に係わるものであり,いってみれば,海岸侵食は日本の社会システムに係わる問題ともいえます(宇多1997).
砂浜海岸を保全するため,日本各地で多くの海岸侵食対策がとられています.離岸堤,潜堤(人工リーフ),突堤,ヘッドランドなど侵食防止用の海岸構造物を設置させる方法や,サンドバイパス工法のように砂が堆積した場所から侵食が進んでいる場所へ砂を移動させるという方法もありますが,いずれも工学的な手法に依存しています.これらの海岸侵食対策は広域にわたって環境改変するため,砂浜の生態系に少なからず影響を与えるはずです.しかし,その影響は必ずしもマイナスの影響だけとは限らず,離岸堤を産卵場所とする魚種の蝟集(木下・石川 1988)という,水産面にも寄与しそうなプラスの影響もあります.ただし,新たな魚種が蝟集したからといって海岸侵食防止用の構造物が生物生息にとって有益だと断定するのは単純すぎます.いずれにせよ,工事施工前と施工後の状態を長期にわたってモニタリングすることにより,マイナス,プラス両面を客観的に評価することが必要でしょう.今後取り組むべき課題ではないかと思います.
平成11年の海岸法の大改正により,従来のような工学一辺倒の考え方から,生態学的な視点も考慮した海岸保全のあり方が模索されるようになりましたが,基本となる砂浜の生態系についての科学的知識がほとんどないのが現状です.進行する海岸侵食によって取り返しがつかなくなる前に,充分な生態学的研究を進めることが急務の課題となります.
浜の地形改変
海岸侵食された部分の修復,あるいは海水浴場スペースの維持確保を目的として,他所から砂を補給すること(養浜)がよく行われます.砂の輸送には多くの場合は車両が使われますが,海底に設置した輸送管を使って砂を運ぶサンドバイパスという方法もあります.養浜は失われた砂浜を回復する効果的な方法ですが,補給する砂の種類や大きさ,養浜された後の地形などはいずれも生物の生息場としての条件に係わる重要な事なので,充分な配慮が必要です.
汚染
内湾域では有機汚濁に起因する富栄養化,赤潮,青潮などが深刻ですが,外海に面した開放的な砂浜では,それ以上にタンカーや石油施設事故による油漂着が脅威です.油漂着による砂浜生態系への影響は,これまで世界で起こった大規模な油流出事故で明らかとなっています.日本は島国であるため,これまでは沖合を航行するタンカーをはじめとする船舶,あるいは沿岸域にある石油施設からの油流出事故だけが想定されがちで,近隣諸国からの影響についてはあまり関心が払われていませんでした.しかし,北海道オホーツク海沿岸のように,近隣国であるロシアのサハリン東部沖油田からの油流出事故が,ただちに沿岸漁場や生態系に大きな被害をもたらすと考えられている場所もあります.
オフロード車や人の走歩行による植生や小動物への影響
砂丘や浜をものともしないオフロード車の走行や,観光客をはじめとする一般の人々による砂丘植生内の歩行は,海浜植物や小動物の巣穴などを踏みつぶすため,それらの生物の生育や生息にとって大きな影響を与えます.
海岸清掃による小動物や餌料の除去
海岸の清掃を目的として,海岸清掃車によるゴミや海藻の除去が行われますが,打ち上げられた海藻や動物遺骸は海岸の栄養源として重要なので,過度の除去は控えるべきだと思います.また,これらの装置は,ゴミなどといっしょに海岸の小型甲殻類など小動物も除去してしまうこともあります.
地下水位の変化
海岸の後背地などにおける地下水の汲み上げが地下水位の低下をもたらし,砂の自然の堆積や侵食バランスや植生に影響を与えることがあります.また,過剰な汲み上げにより海水を引き込む結果となり,砂丘植生に影響が出ることもあります.
漁業や遊漁による生物採取
国によっては海岸での地曳網によって小型魚介類が混獲され,砂浜の保育場としての機能が損なわれています.また,釣り餌として多毛類などの過剰な採取が問題となっているところもあります.採集器具,採取場所・時期,採取数量などについて規制や管理が必要でしょう.
レジャー活動による影響
海水浴客をはじめとするレジャー客の集中が,砂浜に生息する動物を脅かしているという例は各地で聞かれます.最近では,水上バイクがたてるけたたましい音が魚介類に影響を与えているのではないかということも漁業者からよく聞きます.また,とくに海水浴シーズンなどは,日焼け防止用のオイル,臨時の海水浴客施設からの汚水などによる砂浜の汚染が心配されます.
ゴミ
1個や2個の空き瓶なら,ビーチコーミングの対象として遠い見知らぬ国へ思いを馳せるという情緒もありますが,大量の漂着ゴミにせっかくの景観が台無しになっている海岸が多くあります.景観だけではなく,それらの漂着ゴミは,砂面を被ったり,体に絡みついたりすることで,生物の生息を脅かしています.
4.2 砂浜生態系への脅威:2025年の予測
砂浜の生態研究の第一人者,南アフリカのA.C. Brown博士(ケープタウン大学)とA. McLachlan博士(現在,オマーン国スルタン・カブース大学)は,世界の開放的な砂浜海岸が2025年までに直面するであろう問題点をあげています(Brown & McLachlan 2002)(図31).このうちいくつかはすでに現在でも深刻になっている国がありますが(例えば,日本における海岸侵食),とくに,地球温暖化に起因する海面上昇や海流パタンの変化がもたらす海岸侵食は,砂浜生息場を直接消失させるため,砂浜生態系の保全にとっては深刻な問題点となります.
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| 図31 世界の砂浜における様々な環境問題:2025年の予想.Brown & McLachlan (2002)を元に作成. | |||
4.3 海浜植生の重要性
自然の砂浜では,図31のように,海側から陸側に向かって植生のグラデーションが見られます.目で見てわかる境界線があるわけではありませんが,海側から順に,打ち上げ帯,草本帯,矮低木帯,海岸林というように大きく4つに区分されています(大場1979,福本他1995).このうち,砂浜の保全の面から最も注意しなければならないのは,最も海に近い打ち上げ帯です.
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| 図31 砂丘植生の勾配.打ち上げ帯(左)から海岸林(右)へと続く. | |||||
打ち上げ帯は先駆植物帯とも呼ばれ,砂丘の成長に先駆けて真っ先に浜に定着する,根茎や匍匐枝で成長する匍匐草類と多肉草本などで構成されています(図32).日本の砂浜では,コウボウムギ,コウボウシバ,オカヒジキ,ハマニガナ,ハマヒルガオなどが代表的です.打ち上げ帯植物が生える場所は,常時海塩飛沫が飛来し,時には波を直接かぶることもある強い塩分環境下にあります.一方で,植物そのものが少ないため,砂の乾燥は著しく,高温になる場所です.したがって,そのような環境で生育するために,保水するために多肉質であり,過剰な塩分に対してクチクラによる保護と塩分排出のための器官を備えていることが多い,などの特徴をもちます.さらに,土壌である砂の移動が,波や風の影響により激しいので,砂の堆積よりも早く成長する必要があります.
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| 図32 打ち上げ帯の植物. | ||||
このような生理的,生態的特徴をもつ打ち上げ帯の植物は,砂丘あるいは浜への砂の付加や維持に関して重要な働きをしています.つまり,下の図のように初期状態の砂浜に植物が着生すると,それが砂のトラップとなり新たな砂が堆積し土壌が増え,そのことによりさらに植生が広がるというような繰り返しが起こるからです(Leatherman 1988)(図33).こうして,植生は飛砂による砂浜の背後地への砂の流出を防ぎ,砂浜の砂の総量を安定的に増加させる機能を有すると考えられています(加藤1999,加藤・佐藤1998,加藤他1997).一方で,植生は海岸構造物にも影響を受け,離岸堤や堤防などの構造物が設置された付近は,構造物がない場所に比べて植生が少なくなるという観察結果があります(加藤・佐藤1998).
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| 図33 砂丘と植生の成長は互いに密接なつながりをもつ.Leatherman (1988)を元に作成. | |||
砂浜に限定される話ではありませんが,古くから沿岸漁業者は,海辺の樹林が漁業生産にとって重要な存在であると考えてきました.このように魚介類の蝟集に効果があるとされる樹林は魚つき林と呼ばれ,水面に投影される暗影,栄養物質の供給,土砂流出防止,地表流調節などがその効果だと言われています(村井他1992).魚つき林は沿岸水域に対する陸上植生の重要性を示す好例だと言えます.なお,魚つき林というと,一般的には左側の写真のように岩石海岸を縁取る樹林を思い浮かべますが,砂丘の樹林(中央)や河川流域の樹林(右)も魚つき林と見なされ(図34),広く山から海まで連なるものと理解していいのではないでしょうか.
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| 図37 岩石海岸(左),砂浜(中)および河川(右)の魚つき林. | |||||
4.4 砂丘植生は海への栄養補給源
「砂丘に井戸が湧く」と言えば,「本当か?」と思うかもしれません.でも下の写真を見てください.立派な井戸があるのです(図35).砂丘の下には多量の地下水が蓄えられているのです.地下水には,風で運ばれた海塩飛沫,浜に打ち上げられた海藻や動物の遺骸などに起因する栄養塩が含まれ,砂丘に植生が豊富なほど栄養塩は増加します(Brown & McLachlan 1990).鹿児島県の吹上浜では,亜硝酸態度チッソ,アンモニア態チッソ,リン酸態リン,珪酸態珪素などの栄養塩類がラネルをはじめ浅海部に流出しており,サーフゾーンの物質循環や基礎生産へ寄与していると考えられています(早川他2001).
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| 図35 豊かな砂丘植生帯には地下水が湧く(北海道サロマ湖の砂州). | |||||
4.5 海と陸のつながり
下の写真のような光景は日本の至る所で見られます(図36).道路が貫いている部分は元々は砂丘の前縁に相当し,打ち上げ帯植物が繁茂していたのだと思います.しかし,砂丘植生,さらに言えば砂浜の成長と維持の要となる打ち上げ帯が除去されたため,公園の砂場のように生命の息吹が感じられません.自然の砂浜においては,砂丘植生と海との間で,砂や海塩飛沫のような非生物物質の他に,餌となる昆虫や小動物,栄養塩類など,砂浜の成長と維持にとって不可欠な物質が往き来しています(Brown & McLachlan 1990)(図37).従って,海岸部に手を加える場合は,とくに,砂丘植生と海のつながりを途絶えさせない工夫が必要です.
さらに,河川の上流から海に至るまでの過程を一体のものとして捉える流域圏という考え方が多く見られるようになりました.砂浜海岸では,上記の海と砂丘の間の物質交換だけではなく,河川を通しての砂や栄養分供給,砂浜サーフゾーンと河川を往き来するサケ,アユ,キュウリウオなど通し回遊魚(diadromous fish)の存在など,河川との結びつきも重要です.たとえば,海岸保全の分野では流域総合土砂管理という考え方の元で,河川から海岸への流下土砂量の減少に対して,河川および海岸双方における対応が検討されています(鳥居他2000).
このように,砂浜海岸は,後背の砂丘,河川・海跡湖,山野との関わりなしに存在しえないものなのです(図38).そこで,これからの砂浜海岸の保全や管理にあたっては,海の視点だけではなく,陸域とのつながりにも目を向ける必要があるでしょう.
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| 図36 海と陸のつながりが遮断. | ||||
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| 図37 自然の砂浜に見られる海と陸の間の物質交換.Brown & McLachlan (1990)を元に作成. | ||||
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| 図38 海と陸のつながりを考慮した砂浜海岸保全が必要. | ||||
本稿の更新履歴
2005年8月3日(初版)
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